アメリカと日本の職場文化には共通点もありますが、実際に働いてみると、異なった点もたくさんあると感じます。私も、アメリカに大学院生として来てから、もう30年以上アメリカにいます。そのうち20年以上はアメリカの職場で働いてきました。多くは大学や医療関係のクリニックでの経験なのですが、そこで多くのことを失敗を通じて学びました。今日はそのことをここに書いてみたいと思います。読んでくださった方が、アメリカの職場での人間関係がスムーズに行くようになるといいなと思います。 

1、新着者の振る舞いについての考え方の違い 

日本では「アメリカでは自分の意見をはっきり言わないと理解してもらえない。」とよく言われます。私も日本ではそのように教えられてきました。アメリカでは人種のるつぼの国なので、お互いのバックグラウンドが違うため、言葉ではっきりと意見を言わないと、誰も人の気持ちを察してくれないと。しかし実際にアメリカ(特にテキサスのやや保守的な文化)で働いてみると、若いうちはむしろ目立たない方が職場では良いという印象を受けました。 

成田悠輔教授のYouTube「若いうちは、人目につくな」という言葉にも通じます。日本では「会議で発言せよ」「積極的に意見を述べよ」とビジネス書に書かれていることが多いと聞きましたが、アメリカで同じ態度を取ると、文化や信頼関係がまだ形成されていない段階では逆効果になり、煙たがられたり、評価にマイナスとなる可能性すらあります。私の経験では、最初の1年はできるだけ静かに周囲を観察し、人間関係を築き、組織の空気を読むことに徹したほうが、言葉に信頼を増し、結果として仕事をしやすくする近道のように感じます。 

ではなぜ日本では「アメリカでは積極的に発言すべき」と繰り返されるのでしょうか。それは、日本の「控えめすぎる文化」を矯正しようとする振り子の働きだと思います。日本では消極性が問題視されるため、その反動として「もっと発言せよ」と強調されがちですが、現地のアメリカ文化は「発言しすぎる人」をむしろ慎重に見ることがあるような気がします。つまり、バランスがどこでも必要とされていて、どういった行動が好まれるかは場所場所によって異なるので、アメリカだからと教えられたことを鵜呑みにせず、置かれた環境で、同僚がどう行動しているかを観察し、素早く真似してみることが大切だと思います。 

そのため、文化を読む力を養うためにも、まず1年は聞き役に徹するという姿勢が有効だと、アメリカ、特にテキサスの職場では好まれるような印象を受けました。 

2、職場の人間関係の「ウェットさ」と「ドライさ」 

日本の職場文化には飲み会などを通した“ウェット”な人間関係が根付いているようです。一方、アメリカの職場は非常に“ドライ”という印象を受けてきました。家庭と職場をきっちり分ける人が多く、プライベートな質問は失礼と感じられることもあります。 

これは私の経験から学んだことなのですが、ある看護婦さんが1週間以上職場に来ていませんでした。他の人から、その看護婦さんのお母さんが危篤のため、お母さんに寄り添っていらっしゃるということでした。彼女が職場に帰ってきたときに、「お母さんが危篤と言うふうに聞きました。お母さんの具合はどうですか」と尋ねたところ、いろいろ話をしてくれました。彼女はとても心配で毎日が不安だと言っていました。そこで私は「お母さんが大変な時に職場で働いてくれて素晴らしいよ。模範的な働きぶりだね。」と彼女のためを考えて言ったのですが、後で、私の上司から「その看護師はあなたの個人的な質問に不快感を持っている。余計な質問やコメントはすべきではない。」と注意されたことがあります。 

それ以来、職場では個人的情報は極力共有しないよう意識するようになりました。また、アメリカの職場では突然の退職が珍しくありません。そのため、表面的で安全な距離感を保つこと自体が、互いの職と心を守る役割を果たしているのかなと思ったりします。 

3、縦社会のアメリカ 

日本は縦社会で、職場の人間関係の上下がはっきりしており、上司の言う事は絶対という文化に対して、アメリカは、上司でもファーストネームで呼び合う仲の良さで、和気あいあいと仕事をしていると言うようなことを聞いたことがあります。けれども、アメリカの職場でも上下関係ははっきりしていることは多くあると思います。 

ニューヨーク州で働いていたときには、ニューヨークの人は割とはっきりものを言う人が多くて、そういったことも少しあったかもしれませんが、テキサスに来てから、特に大学病院で働いていると厳しい目に見えない上下関係があるような気がします。特に1年ごとにある査定と、そしてその結果としてのボーナスや昇進というのは、上司の裁量次第なので、直属の上司との関係は、いくら表面上和気あいあいとしていても、実際には厳しいこともあります。 

もし上司に嫌われたりすると、テキサスは「at will state(いつでも何の理由もなく辞めさせられる)」なので、雇われ者にとっては厳しい州です。そういったことからも、上司との関係ははっきりしているのかもしれません。 

4、聞く態度の重要性 

アメリカでも日本でも、人の話を聞く事はとても大切です。でもその聞く姿勢に違いがあると思います。日本人の会話では相槌やうなずきなどが多く、アメリカでは相槌よりもむしろ他人の目を見て聞くという風な違いもありますが、アメリカ人の会話をよく観察していると、聞くときに微笑んでいる人が多いような気がします。 

特にテキサスの文化かもしれませんが、 

・笑顔でうなずく 
・目をしっかり見る 
・話し終えた後に簡単なリアクションや同意を示す 

などが、良い人間関係を築く大きな助けになるような気がします。 

日本語の丁寧な敬語が相手への敬意を示すのと同じように、アメリカでは「笑顔」が最大の敬意表現だと実感しています。そこで、私も実際に面白かったり楽しかったりした時だけではなく、他の人が話をしている時にも笑顔で聞くようにしたところ、人間関係が随分良くなったような気がします。 

5、適度な連絡と報告 

過度な連絡は迷惑になりますが、メールやテキストで適度に状況を共有することは、職場での、特に上司との信頼関係を維持するうえで本当に大切だと思います。 

日本でも「ほうれんそう」といった報告・連絡・相談が奨励されると聞いたことがありますが、アメリカでは上司の時間を取らないように配慮しながらも、「short and sweet(短く甘く)」ということを念頭に入れながら、こまめな報告は上司を安心させるので、とても大事だなぁと痛感しています。 

特に医療関係で働いていると、共通の患者さんを診ることになります。そういった時にその患者さんの容体を適切に連絡すると、次の引き継ぎが随分楽になると思います。 

もちろん個人差があるので、上司がどういった連絡方法を好むのかを、他の人たちとのやりとりの中から感じ取り、それを素早く行うことが上司から気に入られるコツかもしれません。ただ、ネガティブな連絡は相当の配慮が必要なので、そういったことも同僚の人がどうしているのかを観察して、素早く真似したほうがいいかもしれません。 

6、叱られたときの反応 

私はアメリカに来てから医学部に行って医者になりました。アメリカの医療現場は本当にカルチャーショックの連続でした。もちろん怒られたり叱られたりする事はたくさんありました。その時には落ち込んだり、腹が立ったりと、いろいろなネガティブな感情が湧いてきましたが、それをそのまま感情的に表現すると最悪な関係になることをすぐに学びました。 

上司からの叱責への対応はアメリカでは特に大切で、そういった時には、「ご指摘ありがとうございます。今後気をつけます」と、いくら怒っていてもまず言うようにしています。その後、もし上司の勘違いがあったのであれば、なるべくネガティブにならないように事実だけを報告するようにしています。 

特に誰も人を怒ったり指摘をする事は愉快ではないのに、それをあえて指摘してくれる上司や同僚を大切にし、自分が改善できる良い機会だと前向きに受け止める姿勢が大事だと思います。 

7、英語の発音 

初めてアメリカに来たときには、英語があまり話せなかったのですが、30年以上アメリカに住んでいても、まだ日本のアクセントはなかなか消すことができません。 

ただ、私が日ごろ英語を話すときに心がけていることに、「日本語で話すよりも英語で話す時には、腹の底から声を大きく出して、口の周りの筋肉を過剰に動かしながら、はっきりと英語の発音をする。」ということです。 

日本語では、口の周りの筋肉をあまり動かさずに話してもわかってもらえましたが、アメリカでは英語の発音を大きく強調することが、アメリカ人にはわかりやすいような気がします。 

最後に、アメリカでも日本でも、職場の人間関係は決して簡単ではありません。しかし、アメリカで生き残っていくためには、また日本人がアメリカで出世していくためには、職場の仲間や上司との関係がとても大事になってきます。 

その他にも、次のようなことを気をつけていると、人間関係がうまくいくような気がします。 

・相手が何を望んでいるか感じ取る 
・言われた以上のことを誠実に行う 
・優しさと敬意をいつも忘れない 

これらを心がければ、どの国の人とでも良好な関係が築けるのではないかなぁと感じている今日この頃です。