前回に引き続き、USPSTF(US Preventive Services Task Force)が提唱している健康診断について書いてみたいと思います。前回お話ししたように、アメリカ人の死因となるがんを多い順に並べると、次のようになります。

  1. 肺がん
  2. 大腸がん
  3. 乳がん
  4. すい臓がん
  5. 前立腺がん

前立腺がんは男性にしか発生しませんが、乳がんは稀ながらも男性にも発生することがあります。

すい臓がんの検査

すい臓がんを早期発見するための定期検査は一般的ではありません。通常、背部への痛みや急激な体重減少といった症状が出ない限り、アミラーゼやリパーゼといった膵酵素のテストは実施されません。そのため、すい臓がんが発見された時点ではすでに進行していることが多いのが現状です。

前立腺がんの検査

前立腺がんの検査として、PSA(前立腺特異抗原)血液検査がありますが、USPSTFは40歳以下および70歳以上の男性にはPSA検査を推奨していません。 その理由は、前立腺がんは進行が非常にゆっくりであり、前立腺がんで診断される男性の約16%が生涯に一度はこの病気にかかるものの、死亡率はわずか3%に過ぎないからです。そのため、前立腺がんと診断されても、他の病気やがんで亡くなるケースが多いことが研究で示されています。

その他の健康診断

がん検査以外にも、肥満、糖尿病、うつ病、アルコール依存症を早期発見するためのさまざまな検査が推奨されています。特にUSPSTFは健康的な食事と適度な運動を強く推奨しており、以下のような食生活のガイドラインを打ち出しています。

健康的な食生活の指針

  1. 一生を通じて、健康的な食習慣を維持する。
  2. 栄養バランスと適量を考慮して食事を摂取する。
  3. 砂糖、脂肪、塩分の摂取量を控える。
  4. 健康的な食事を意識的に取り入れる。

具体的な目標として、

  • 砂糖の摂取量を総カロリーの10%以下
  • 脂肪の摂取量を総カロリーの10%以下
  • 塩分の摂取量を1日2.3g以下
  • アルコールは適量を守る

塩分2.3gは、小さじ半分ほどの量に相当し、かなり控えめな量です。

政府の公的ウェブサイト Choose My Plate では、以下のような食品群のバランスを考えた食事が推奨されています。

https://www.choosemyplate.gov

  • Fruits(果物)
  • Grains(穀物)
  • Protein(たんぱく質)
  • Vegetables(野菜)
  • Dairy(乳製品)

運動の重要性

定期的な運動には、次のような健康効果があります。

  1. 寿命を延ばす
  2. 精神的健康を促進する
  3. 心臓病、高血圧、肥満、糖尿病、大腸がん、うつ病などの予防に役立つ

具体的な推奨運動量は以下のとおりです。

  • 健康維持のために、週に150分の適度な運動 または 75分の激しい運動
  • より高い健康効果を求めるなら、週に300分の適度な運動 または 150分の激しい運動
  • 1回10分以上の運動をこまめに行うこと

アメリカと日本の健康習慣の違い

日本では日常的に公共交通機関を利用するため、歩く機会が多く、自然と運動量が確保されます。しかし、アメリカでは大都市(ニューヨークなど)を除いて車社会であるため、運動不足になりがちです。

さらに、アメリカではファーストフード文化が根強く、日本の伝統的な食事のようにバランスの取れた食生活を送るのは意識しないと難しいのが現実です。

アメリカの自由主義と健康管理

アメリカは個人主義が強く根付いており、食事やライフスタイルの選択も個人の自由として尊重されます。例えば、スターバックスではコーヒーの注文時に細かくカスタマイズできますし、レストランでも個人の嗜好に合わせた注文が可能です。

私自身、ヴィーガン(完全菜食主義)ですが、日本ではヴィーガン向けのメニューが限られているため外食が難しいのに対し、アメリカではどんな店でもカスタマイズ注文が受け入れられます。しかし、その自由さが逆に健康管理を難しくしている一面もあります。

健康管理の課題

現在、緊急病院で勤務していますが、そこには健康を害した人々が日々訪れます。多くは、自分の健康を軽視し続けた結果、最終的に体が悲鳴を上げてしまったケースです。

医師として大変なのは、患者の意思を尊重しなければならないこと です。

  • 例えば、治療を受ければ回復するのに、それを拒否する患者がいる。
  • タバコが健康に悪いと何度説明しても、禁煙しない人がいる。

特にアメリカでは、近代生活を拒絶するアーミッシュの人々がしばしば病院を訪れます。彼らは電気製品を使わず、伝統的な生活を続けており、それは尊重すべき文化ですが、ワクチン接種を拒否するために感染症にかかるケースが多いのも事実です。特に子供たちの健康を守るためには、ワクチン接種の重要性を伝えたいのですが、最終的には彼らの信念を尊重するしかありません。アメリカのよき自由主義も医学の分野では治療を複雑にしている一因となっているのです。