(11/30/2017)

パート1:「患者に訴えられた」

これは先日、私の同僚が放った言葉だ。彼は頭脳明晰で性格も明るく、人々に親切で人気のある、4女の良きパパでもある緊急医だ。彼によると、2年以上前、まだ研修医として働いていた時の患者に訴えられたらしい。深くは聞かなかったが、その言葉の後、その場にいた他の同僚から、信じられないような訴訟の経験が次々と話し合われた。

特にひどいケースでは、患者がAMA(Against Medical Advice – 医師の指示に従わず)で退院したにもかかわらず、その後亡くなり、家族が「なぜ退院させたのか」と医師を訴えた例がある。AMAは、患者が医師の指示に従わず退院する際に使用するものだ。通常、患者にはAMAの書類にサインさせ、どのようなリスクがあるかを説明し、医師と病院が責任を負わないことを確認する。しかし、それでも家族が医師の判断を疑えば、訴訟を起こすことができる。それには医師側はどうすることもできない。こうした背景から、アメリカは「訴訟の国」と言われるが、医師にとっては恐ろしいものの、患者やその家族、弁護士にとっては「素晴らしい国」なのかもしれない。同僚は訴訟に勝訴したものの、ストレスや費やした時間は計り知れない。

別の医師も、自身の経験を語り始めた。彼は以前、外科医として働いていたが、ある日、腹部の手術を終えて帰宅し、翌朝病院に行くと、その患者が亡くなっていた。外科医は通常、当直制をとっているが、その夜の当直医が、患者の容態が悪化していたにもかかわらず、病院に来なかったらしい。当直には、病院内にいる必要がある場合と、一定の範囲内であれば自宅で待機してもよい場合の2種類がある。しかし、病院内に外科医を拘束すると出費がかさむため、多くの病院は在宅当直を認めている。

ところが、看護師が家にいる当直医に電話をしても、患者の状態を的確に伝えることが難しい場合がある。特に手術後の患者は急変することがあるため、適切な対応が求められる。しかし、他の医師の患者は自分の患者よりも扱いが丁寧でないことがあり、特に深夜に患者の容態が悪化しても、翌朝まで様子を見ることが多い。そのため、病院の中には、当直医が夜間に病院へ来て患者を診るだけで、数百ドルのボーナスを与える制度がある。こうした制度は、当直医が患者のケアに積極的になることを目的としている。しかし、その外科医の患者が亡くなった当時、そうした制度はなかった。そのため、当直医の対応が遅れた結果、患者が死亡し、最終的に執刀医の彼が訴えられ、敗訴してしまった。一度敗訴すると、その記録は医師を続ける限り付きまとい、免許更新や新しい職場への転職時に詳細な説明を求められる。

別の女医は麻酔医をしており、訴えられた経験を話してくれた。彼女は病院の示談の指示に従わず、最後まで戦い、勝訴した。しかし、その訴訟は数年に及び、精神的なストレスは計り知れないものだった。我々医師は、こうした訴訟に備えた医療を行わざるを得ない。訴えられないためには、プロトコールに沿った治療を忠実に実行し、どんな細かなことでも記録しておくことが不可欠だ。日本でも医療訴訟が増えていると聞く。本当に患者のための医療と、訴訟を避けるための医療の間で綱渡りをしなければならないのが、アメリカの医師の現実である。

パート2:誰と結婚するかが健康を左右する?!

最近、とても興味深い記事を読んだ。「長生きしたければ、賢い女性を妻にしなさい。」という記事だ。研究によると、知的で面白い会話ができるパートナーがいることが、認知症の予防につながるらしい。

科学者たちは、一卵性双生児の生涯を追跡し、認知症の発症率が先天的な要因よりも環境によって変わることを発見した。例えば、脳のスキャンで認知症の兆候が見られる人でも、高収入で知能指数の高い職業についている人は、実生活では認知症の症状が現れにくいことがわかった。また、職業だけでなく、幼少期の環境や教育年数も認知症の進行に影響を与えるという。

研究では、父親の職業、妊娠中の母親の食事、子供の頃の知能指数、成人後の年収や教育レベルなどが、後の健康に影響を及ぼすことが示されている。以下のPETスキャンの写真を見てほしい。向かって左側が普通の人の脳のスキャンで、真ん中がすこし痴呆症がある患者さん、そして、右側の写真は痴呆症の患者さんの脳を表している。このように、認知症と診断された人でも、環境要因によって症状の進行が異なるそうだ。

https://www.cbc.ca/gfx/images/news/photos/2009/07/14/alzheimer_pet-scans090714.jpg

私たちの過去や幼少期の環境は変えられないが、結婚相手を選ぶことはできる。ダイエットや運動が健康に重要なのはよく知られているが、誰と結婚するかが健康を左右するというのは、新たな視点として非常に興味深い。