DNR(Do Not Resuscitate)という言葉を聞いたことがあるだろうか?これは「蘇生するな」という意味で、医療現場では非常に重要な概念である。あるウェブサイトでは、「死を覚悟した患者または家族が、容態が急変し心停止に至っても心肺蘇生法を行わず、静かに看取ってほしいという意思表示」と説明されている。

病院では入院時に、すべての患者にDNRおよびDNIの意思を確認し、それを記録する義務がある。DNR(蘇生するな)およびDNI(挿管するな)に署名があれば、その情報は患者の電子カルテの最初のページに大きく記載される。我々医療スタッフは、その意思を尊重する義務がある。

先日、緊急病棟で勤務していた際、91歳の女性が搬送されてきた。彼女は大動脈解離という重篤な状態で、生死をさまよっていた。心臓外科医が駆けつけ、治療方針について協議したが、問題は彼女がDNRおよびDNIに署名していたことだった。法的に、医師は何も処置を行うことができず、痛みを和らげることしかできなかった。

もしDNRとDNIがなければ、直ちに気管挿管を行い、手術室で大動脈を修正する大手術を実施していた。しかし、彼女の年齢では、この手術は極めて高リスクであり、成功しても完全に回復する可能性はほぼなかった。CTスキャンを見ながら、可能な治療法を考えたが、打つ手がなかった。そして数十分後、彼女は家族や友人に見守られることなく、緊急病棟の雑然とした一室で静かに息を引き取った。

担当者が家族への連絡を試みたが、警察は個人情報保護法に基づき詳細を伝えず、ただ「直ちに病院に来るように」とだけ通知したそうだ。

DNRの刺青をめぐる倫理的ジレンマ

数日後、私はインターネットで興味深い記事を見つけた。

Unconscious patient’s ‘Do Not Resuscitate’ tattoo creates ethical dilemma for ER staffDNR刺青無意識患者緊急医療スタッフに倫理的ジレンマをこす)」

これは、フロリダ州の病院で起きた出来事を報じたものだった。ある70歳の男性が無意識状態で搬送されてきた。彼の胸には「Do Not Resuscitate」という刺青があり、「Not」の下には強調するように下線が引かれ、さらにその下には明らかに本人の署名と思われる刺青があった。

彼は泥酔しており、付き添いもなく、家族に連絡を試みたものの、誰にもつながらなかった。記録によると、彼は慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、心臓病を患っていた。緊急医たちは懸命に対応したが、彼の意識を取り戻すことはできなかった。

当初、医師たちはこの刺青を「単なるいたずら」と考え、通常の救命処置を施そうとした。なぜなら、もし彼が生きていれば、その意思を直接確認できるが、逆に誤ってDNRを尊重して処置を施さずに死亡させてしまった場合、取り返しがつかないからだ。それが医療ミスと認定されれば、病院や医師は訴訟に直面する可能性があった。

こうした倫理的なジレンマに直面した際、病院では通常、法務部門に助言を求める。病院の弁護士は、この患者のDNRの刺青を尊重すべきだと判断し、その指示を緊急医に伝えた。結果として、この男性はそれ以上の必要な救命処置を受けることなく、その夜、容態が悪化し死亡した。

患者の意思を尊重する医療の難しさ

アメリカでは、医療処置を受けるかどうかを選択する権利があり、医師は患者の意思を尊重しなければならない。それがたとえ家族の意思と異なっていても、あるいは患者の死を招くことになったとしても、だ。

医師は本来、患者を救うために学び、努力する。しかし、医療現場では、それが必ずしも活かされないことがある。これは医療の進歩とともに、医療倫理の難しさを改めて浮き彫りにする事例である。