先日、44歳の白人女性が病院に運ばれてきた。彼女は全身に真っ赤な湿疹が出ており、発熱、吐き気、嘔吐を繰り返していたため、他の病院から私たちの病院に転送された。

彼女によると、1週間ほど前からひどい腹痛が続き、近くの緊急病院を受診したが、検査の結果、特に異常は見つからなかった。ただし、尿検査でわずかに白血球が検出されたため、尿路感染の可能性があるとして、バクトラムという抗生物質を5日間服用するよう処方され、帰宅した。

翌日、薬局でバクトラムを購入し、夕方から服用を開始。3日間、朝晩服用を続けたところ、3日目の夜に発熱と吐き気が生じた。彼女は解熱薬のタイラノールを服用したが効果がなく、アイブプロフェンに切り替えたところ、一時的に熱は下がった。しかし、翌朝には全身にひどい湿疹が現れ、午後には再び発熱した。

再び緊急病院を受診したが、特に異常は見つからず、検査の結果を待つよう指示されて帰宅。しかし、数時間後に病院から連絡があり、肝臓の検査値が異常に高いため、直ちに戻るよう指示された。病院に戻ると、そのまま入院となった。

入院先の病院でもバクトラムが再処方され、予定通り5日間の服用を終えた。しかし、翌日には肝臓の検査値が通常20程度のところ、1万を超える危険な数値になり、彼女はさらに大きな病院である私たちの病院へ転送された。

誤診と抗生物質の副作用

彼女は最近ダラス市から移住してきた、感じの良い女性だった。バクトラムが症状の原因であることは、すぐに明らかになった。タイラノールも肝炎を引き起こすことがあるが、彼女の服用量は正常範囲内だった。

通常、無症状の尿路感染には抗生物質は処方しない。しかし、最初の医師は尿の白血球の異常に気を取られ、肝炎を示すわずかな異常値を見落としてバクトラムを処方してしまった。その結果、彼女はバクトラムのアレルギー反応によって肝炎を発症した。

さらに、再入院した病院でもバクトラムが原因と気付かず投与を続けたため、肝炎の症状が悪化し、肝臓移植が必要になる可能性まで出てきた。最終的には肝臓生検まで行われる事態となった。

抗生物質のリスクと医療の慎重さ

もし肝臓移植が必要となれば、膨大な時間と費用がかかる。彼女には6歳の娘がいるが、長期入院のため育児も仕事もできなくなり、生活に大きな影響を及ぼした。さらに、移植が成功しても一生免疫抑制剤を服用し続けなければならない。

尿路感染かもしれないというだけで処方されたバクトラムによって、彼女の人生は大きく変わってしまった。後の検査で彼女に尿路感染はなかったことが判明した。

もし私が彼女の立場なら、最初にバクトラムを処方した病院と、その後も投与を続けた病院を訴えていたかもしれない。ただし、彼女がバクトラムにアレルギーがあることを知らなかった以上、医療ミスを免れる可能性もある。医師がアレルギーの可能性を知りながら処方していたならば、言い逃れはできない。

幸いにも、私たちはバクトラムが原因であることをすぐに突き止め、肝炎の治療を開始した。すると彼女の肝臓の数値は急速に改善し、正常値に近づいた。

抗生物質の過剰使用の問題

このケースは、抗生物質のリスクを示す典型的な例だ。風邪や発熱、咳が出るとすぐに抗生物質を処方されることがあるが、抗生物質には重大な副作用がある。

また、抗生物質を乱用すると、細菌が薬に対する耐性を持ち、次第に効かなくなる。この「耐性菌」の出現により、ますます強い抗生物質が必要になり、最終的にはどんな抗生物質も効かない「スーパーバグ」を生み出す可能性がある。そうなれば、我々医師はなす術がない。

医療にはミスがつきものであり、薬には必ず副作用がある。どんなに優れた薬でも、用法や用量を誤れば、有害な毒薬になってしまう。だからこそ、緊急時以外は、医師とよく相談し、薬の副作用や適切な服用方法を理解することが重要だ。

医療の慎重さと責任

私が外科のインターンとして働いていたとき、全身が湿疹の跡で覆われた患者を診たことがある。彼は、薬の副作用で重度の皮膚病を患い、一生その皮膚と共に生きていかなければならなかった。

もちろん、彼の医師はアレルギーがあることを知らなかったのだろう。しかし、それでも自分の処方した薬が患者の人生を一変させてしまったことに、医師としての後悔は尽きないだろう。

私の信念は、「検査は徹底的に行い、処置は最小限に」というものである。もちろん、検査は高額であり、多くの場合、異常が見つからないこともある。しかし、必要な検査を行えば、病気の見落としを防ぎ、より正確な診断が可能となる。

私が医学部時代に指導を受けた教授は、ミネソタ州のマヨクリニックについて語っていた。この病院は最高の治療を施すことでゆうめいなのだが、そこでは患者に徹底的な検査を行い、病気を見逃すことがないらしい。このテストの多さが治療の良さの一因だとその教授はいっていた。この考えに影響を受け、私は可能な限り、とくに予算が許す限り検査を行い、患者には薬の副作用や正しい服用方法を丁寧に説明することを心がけている。

薬は病気を治すためのものだが、時に病気を引き起こすこともある。その皮肉な現実を、私たちは常に意識しなければならない。