先週の金曜日は「マッチデー」でした。マッチデーとは、医学部4年生が卒業後にどの病院で研修医として働くことになるのかが発表される日です。この日は、まさに医学部4年生にとっての運命の日といっても過言ではありません。今回は、このマッチデーについてお話ししたいと思います。

マッチデーは、アメリカの医師研修制度において、非常にユニークな制度のひとつです。日本の医学界にはこのような仕組みはなかったのですが、最近似たような制度ができたと聞きましたが。他の専門職でもこのような制度はあまり聞いたことがありません。たとえば、法学部を卒業して弁護士になる場合は、インタビューや人脈などを通じて、自分で研修または就職先を探すのが一般的でしょう。しかし医学の世界では、全く異なる中央集権的なマッチング制度が存在します。それが「マッチ」なのです。

アメリカの医学部は4年間の課程ですが、カリキュラムの内容は大学によって異なります。私が医学生だった頃は、1・2年生で基礎医学を学び、2年生の夏に「Step 1」と呼ばれる第1回目の国家試験を受験しました。これに合格すると、3年生に進級し、病院で実際に医師の指導のもと、患者さんの診察に携わったり、診療を見学したりする臨床実習が始まります。

私の時代には、内科・外科・小児科・精神科・家庭医療・産婦人科の6科目が必修で、それぞれおよそ2か月ずつローテーションで学びました。その後、3年生の夏に「Step 2」という第2回目の国家試験を受験します。この試験は臨床的な問題が中心で、合格後には「Clinical Skills」と呼ばれる実技試験があります。この実技試験では、俳優が患者役を演じ、学生はその患者に問診や身体診察を行います。コミュニケーション能力や診察手技が厳しく評価され、一定の基準に達しなければ合格できません。たとえば、「子どもが高熱を出している」という緊急の電話が入った場面で、すぐに救急病院へ行くように指示をしなかったために不合格になった同級生もいました。そのときの模擬患者(俳優)は、「車がないし、タクシー代もない」と訴えたのですが、受験者はその状況に応じて、「すぐに救急車を呼んでください」と適切に指示しなければなりません。子どもが高熱を出している場合、後遺症が残る病気や、最悪の場合は命に関わることもあるため、最も重篤なケースを想定して判断する必要があるのです。

4年生になると、いよいよ研修先への応募が始まります。応募は夏頃にスタートし、秋にはさまざまな病院からインタビューのオファーが届きます。私が学生だった頃は、各地の病院を実際に訪問して面接を受けましたが、コロナ禍以降は多くの面接がZoomで行われているようです。

私は約20か所からインタビューのオファーを受けたため、飛行機や車で全米を飛び回り、かなりの出費となったことを覚えています。でも、それは将来のための必要な投資だと覚悟を決めて、すべてのインタビューに参加しました。

そして2月ごろ、すべての4年生が「行きたい順」に病院を順位づけしたリストを作成し、マッチング機関(NRMP)に提出します。もちろん第1希望を最上位に、その後は希望度の高い順に並べていきます。絶対に行きたくない病院はリストに入れないほうが賢明ですが、マッチしないリスクを考えて、あえて入れる人もいます。

私は外科医を志望していたので、外科でインタビューを受けた病院はすべてリストに入れました。なお、インタビューを受けた病院でなければリストに載せることはできません。

リストを提出した後は、3月のマッチデーまでひたすら待つことになります。そして、いよいよマッチデー。当日は決められた時間に全学生が一堂に会し、それぞれの「封筒」が手渡されます。その封筒には、自分がマッチした病院名が記載されています。私の大学では、学生が一人ずつステージに上がり、自分の進路を発表する形式でしたが、これは大学によって異なります。とはいえ、どこの大学でも盛大な祝賀ムードでお祝いのパーティが開かれるのが恒例のようです。

マッチ制度は、一見すると無情で学生の人権を無視しているようにも思えます。希望するリストを提出することはできますが、必ずしもその希望が通るとは限りません。たとえば、テキサスに残りたいと希望しても、他州にマッチすれば、そこに行く必要があります。一度マッチされた先を変更するのは非常に難しく、翌年まで待つ必要がある場合もあるようです。

では、どこにもマッチしなかった学生はどうなるのでしょうか? その場合、「SOAP(Supplemental Offer and Acceptance Program)」という制度に参加することになります。これはマッチ当日の午後に行われ、空きのある病院と連絡を取り合い、スピーディーにマッチを目指すプロセスです。この段階になると、細かい希望を言っている余裕はなく、受け入れてくれる病院を必死に探すことになります。

私の場合、外科医を目指していたので、州よりも研修内容を重視し、たまたまジョージア州アトランタの病院にマッチしました。あの1年は、私の医師としてのキャリアにおいて、本当にかけがえのない経験となりました。インターン(研修1年目)は非常に厳しく、朝から晩まで働き詰めで、分からないことだらけの中で手術の補助をしました。緊急手術では一瞬の判断が命に関わるため、ミスは許されません。現場の緊張感は非常に高く、怒号が飛び交うことも日常茶飯事でした。

そんな中で、私は「本当の意味で働くこと」を学びました。もし別の、もっと穏やかな病院に行っていたら、これほどの覚悟や成長は得られなかったかもしれません。医学とは、単なる知識ではなく、働く姿勢、そして人間性も問われる職業だということを身をもって学びました。

医学部4年生たちは、7月1日から全国各地の病院で研修を開始します。この1年は、人生で最も過酷でありながら、最も成長する1年だと思います。そしてこの経験が、将来の働く姿勢や人間性を決定づけるのです。どうか、一生懸命、誠実に、そしてすべての人に優しく接する気持ちを忘れずに、この貴重な1年を過ごしてほしいと、心から願っています。この1年が将来の働く態度を決めると言ってもいいと思います。だから一生懸命働いて、そしてすべての人たちに親切に接することを学んでほしいと、今年の卒業生に心から願ってエールを送りたいと思う今日この頃です。