(7/1/2025)

今日、医師の自殺に関するニュースを読んだ。それによると、医師の6人に1人が自殺を考えたことがあるが、実際に自殺未遂を試みたことがあるらしい。さらに、38%の医師が、自殺願望のある同僚を知っていると答えていた。この調査は医師を対象に行われていて、自殺の背景や仕事のストレスと自殺願望との関係、そして自殺を考えている医師にどんなサポートができるのかを探るものだった。

正直、私自身も医師として働いていて、強いストレスを感じたり、落ち込んだりすることもよくある。善かれと思ってやったことが裏目に出て、患者さんに怒鳴られたり、上司に叱られたりすることもあるし、「医者って割に合わないな」と思うこともある。特に私のような日本人女性がアメリカで医師として働いていると、嫉妬や妬みを買いやすい部分もあるのかもしれない。そんなときにこのアンケート結果に出会って、いろいろ共感するところがあったので、今回はその内容をまとめつつ、医師としてどう向き合えばいいのかを考えてみたいと思う。

そのアンケートによると、医師の1%が実際に自殺を図ったことがある、そして15%が自殺を考えたことがあると答えたそうだ。そして、その背景にはこんな要因が挙げられていた

●スタッフ不足のための職場での多忙

●コロナによる精神的ダメージの残存

●社会的・政治的な不安定さ

コロナ感染は落ち着いてきたとはいえ、精神的な影響は今も多くの医師に残っているからしい。また、医師の38%が「自殺を考えた / 未遂をした同僚がいる」と答えているのに対して、病院の管理職の中で同じように答えたのはたった9%だった。このギャップを見ると、医療現場で起きていることが、組織にはなかなか伝わっていないことがわかる。

では、なぜ医者が助けを求めるのが難しいのだろうか?実際、自殺願望があっても助けを求めるのが難しいと感じている医師は多い。その一つの理由はプライバシーの問題だ。アメリカでは患者さんの医療情報の保護が厳しいのだが、自殺に関しては例外で、相談内容の秘密が守られないこともある。例えば、「自殺を考えている」と誰かに話した瞬間から、プライバシーは無視されて、精神科に通報されたり、入院を強要させられる可能性もある。それが職場に知れたら、人間関係がやりにくくなるかもしれない。それに、最悪の場合は、休職、または退職を勧められるかもしれない。仕事が忙しすぎるのも問題である。最終的には、医者に多くの責任のある仕事が集中してしまうのだ。医師や医療スタッフのためのカウンセリング制度がある病院が最近は多くなっているが、多忙のためそのカウンセリングのため時間が取れなかったり、予約までに数週間も待たされたりして、実際には現実的でない場合が多い。精神疾患に対する偏見も根強いし、「相談したら仕事失うかも」「医師免許に影響が出るかも」と不安に思っている医者も多いらしい。

では、なぜ医師がカウンセリングを受けないのだろうか?アンケートでは、「なぜ、専門家に相談しないのか」っていう質問に対して、こんな答えがあがっている。

●自分で何とかできると思う

●医療免許委員会に通報されるのが怖い

●保険の記録に残るのが嫌だから

●同僚に知られるのが嫌だから

●専門家を信用していない

そして、「職場のメンタルヘルス支援が十分だと思うか」という質問には「はい」と答えたのは、全体の31%しかいなかった。その他の答えは、「ノー」か「わからない」であった。

私が実際に患者さんとして診療した薬剤師さんの話を、細部をかえて誰か分からないようにここでお話したいと思う。その人は離婚がきっかけでアルコールに依存してしまい、自殺願望もあった。ある日、飲みすぎて緊急病院に運ばれ、自殺願望とうつ病の診断を受け、抗うつ病を処方された。だが、そのことが職場に知られてしまい、州の薬剤師免許委員会から業務停止の命令が出された。医者の手当てとカウンセリングを受けてだいぶ良くなり、3か月後には職場復帰もできるまでになった。でも、自殺願望という診断が記録に残ってしまい、職場に復帰はできたものの、薬剤師免許委員会に3年間の保護観察機関が命令された。その間は3ヶ月ごとに「自殺リスクがない」という医師に診断をしてもらい、そのレポートを提出しなければならない。カウンセリングも定期的に受けなければならなかった。精神病を抱えている人にいろいろな課題を課して、社会復帰をもっと難しくしているのではないかと思われる処置だった。もちろん、薬剤師は薬を扱う仕事であるので、万が一を考えると正しい処置だったかもしれない。薬剤師は、いつも職場で薬に囲まれているので、もし自殺を考えたとすると、すぐに薬を過剰摂取できる環境にある。でも、こういうケースがあると、「だれかに相談をすると後々大変なことになるかもしれない」と感じて、医療機関で働く者が助けを求めにくくなっているのも事実だと思う。

医師も人間である。医師というのは、他人の心と体を守る仕事であるが、自分自身も精神的に病むこともある。特に職場での精神的なストレスも多く、それが自殺願望につながることもありうるだろう。そして、一見支援体制が整っているように見えても、実際に助けを求めるとキャリアに傷がついたり、クビになったりするのではないかと不安もあり、誰にも言えない。そのまま孤独の中で追い込まれてしまう医者もおおいのかもしれない。ある研究によると医者の自殺率は10万人のうち28‐40人で、その率はその他の職業の人たちと比べるとかなり多いと報告されている。

自分としては、医者になる前は、「人を助けることができる仕事は素晴らしい」と思い、今もそう確認している。でも、実際に現場で働いていると、医療現場で実際に働く厳しさをひしひしと感じる。だからこそ、まずは自分の心と体を守ることが患者さんをちゃんと助けられるための第一歩ではないのだろうかと思う。きちんと必要な休息をとったり、家族や友人と過ごす時間を大事にしたりして、自分のケアを大切にすることが、患者さんにいい治療を提供できるいい医者になるために必要なのではないかと痛感させられる今日この頃である。

引用文献
https://www.medscape.com/slideshow/2025-Physician-Suicide-Report-6017981?ecd=WNL_physrep_250628_MSCPEDIT_CS-
P4_suicide_etid7527390&uac=296604CR&impID=7527390#16
Dutheil F, Aubert C, Pereira B, Dambrun M, Moustafa F, Mermillod M, Baker JS, Trousselard M, Lesage FX, Navel V. Suicide among
physicians and health-care workers: A systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2019 Dec 12;14(12):e0226361. doi:
10.1371/journal.pone.0226361. PMID: 31830138; PMCID: PMC6907772.