アメリカに住んでいる人であれば、アメリカ人の肥満が単なる個人の問題ではなく、社会的な現象であるということに気づくと思う。実際、疫学研究によると、成人(20歳以上)における肥満率は40%以上に達しており、この背景にはファーストフード中心の食生活や高カロリー・高脂肪の食習慣、さらには生活環境そのものが大きく影響していると考えられている。*

特にテキサス州では、自動車がなければ日常生活が成り立たないほど交通インフラが車中心であり、徒歩や公共交通機関を利用する機会が非常に限られている。このような生活様式は身体活動量の低下を招きやすく、さらに、ステーキを中心とした高カロリーな食文化や、糖分の多い飲料を日常的に摂取する習慣も、肥満率の上昇に寄与していると考えられる。実際、アメリカ国内の都市別肥満率の比較では、次のようなランキングが報告されており、テキサス州の都市が1位となっていることが報告されている。*

1位 マッカレン・エディンバーグ・ミッション(テキサス州)McAllen–Edinburg–Mission, Texas
2位 シュリーブポート・ボージャー(ルイジアナ州)Shreveport–Bossier City, Louisiana
3位 メンフィス(テネシー州)Memphis, Tennessee
4位 ジャクソン(ミシシッピ州)Jackson, Mississippi
5位 モービル(アラバマ州)Mobile, Alabama

私自身もアメリカで患者を診察していると、日本では考えられないほど太っている患者さんに出会うことがよくある。肥満の評価には、BMI(Body Mass Index:ボディ・マス指数)という指標が用いられ、「体重(kg)÷身長(m)の2乗」で計算される。このBMIは臨床現場ではバイタルサインの一つとして扱われ、血圧や脈拍などと同様に診療記録に記載される重要な指標である(バイタルサインとは、「脈拍」「呼吸」「体温」「血圧」「意識レベル」といった基本的な身体状態を評価する検査項目を指す)。

BMIの計算は以下の通りである。

BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m)²

例えば、身長175cm(1.75m)、体重75kgの人の場合、BMI = 75 ÷ (1.75²) = 約24.5となる。

米国CDCの基準では、BMIは一般的に以下のように分類される。**
・18.5未満:低体重
・18.5以上25未満:健康体重
・25以上30未満:過体重
・30以上35未満:肥満 Class 1
・35以上40未満:肥満 Class 2
・40以上:肥満 Class 3、または重度肥満

臨床の現場では、BMIが40以上の高度肥満の患者も決して珍しくない。こうした患者では体重による負担が膝や足関節に強くかかるため、関節の痛みやけがを起こしやすく、日常生活にも大きな影響を及ぼすことがある。また、肥満は高血圧や糖尿病などのメタボリック症候群と密接に関連しており、さまざまな疾患のリスクを高める。

肥満に対する治療としては、これまでさまざまな薬物療法が開発されてきたが、薬だけで十分な体重減少が得られない患者も多く、そのため外科的治療が広く行われてきた。例えば、胃をバンドで締めて食事量を制限する手術や、胃の一部を切除して小さくする手術などがあり、重度肥満の患者では健康保険の対象となっている。

しかし近年、GLP-1受容体作動薬や、GIP/GLP-1受容体作動薬と呼ばれる薬剤が登場した。これらはもともと糖尿病治療薬として開発されたものであるが、体重減少効果が認められたことから、肥満治療にも応用されている。これらの薬はインスリンと同様に、皮下注射で投与され、皮膚のすぐ下の脂肪組織に注射する。多くは週に1回程度の投与であるが、薬剤によっては毎日の注射が必要なものもある。代表的な薬剤には以下のようなものがある。***

薬の名前(商品名 / 成分)主な用途(FDA承認)説明
オゼンピック(Ozempic / セマグルチド)糖尿病もともとは糖尿病の薬だが、体重が減るため「やせる薬」として使われることが多い
ウゴービー(Wegovy / セマグルチド)肥満・体重管理オゼンピックと同じ成分だが、減量目的として正式に認められている薬
モンジャロ(Mounjaro / チルゼパチド)糖尿病血糖値を下げる薬だが、体重も大きく減るため注目されている
ゼップバウンド(Zepbound / チルゼパチド)肥満・体重管理モンジャロと同じ成分で、減量専用として認可された新しい薬
サクセンダ(Saxenda / リラグルチド)肥満・体重管理毎日注射が必要だが、比較的早い時期から使われている減量薬
トルリシティ(Trulicity / デュラグルチド)糖尿病週1回の注射で使いやすいが、体重減少の効果はやや控えめ

これらの薬剤は当初非常に高価であり、1ヶ月あたり約1000ドル程度かかるため一般の人々には手が届きにくかったが、最近では一部保険適用となり、多くの人が使用し始めている。私の身近な友人の中にも数人使用している人がおり、そのうちの一人はこの薬を使用して数ヶ月で約30ポンド(約14kg)の減量に成功したと話していた。このような結果から、これらの薬は一部で「奇跡の薬」として、多くの人々に希望を与えてきた。

しかし最近では、副作用に関する報告も増えており、製薬会社に対する訴訟も起きている。副作用としては、吐き気、嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状が比較的よく知られている。また、近年はセマグルチドと非動脈炎性前部虚血性視神経症、いわゆるNAIONとの関連も議論されており、突然の片眼の視力障害などには注意が必要とされている。こうしたことから、これらの薬は一時のような「奇跡の治療」という位置づけから、安全性を慎重に評価すべき治療へと認識が変わりつつある。

結局のところ、薬や手術といった一時的な方法に頼るだけでなく、日々の食生活の改善や適度な運動といった生活習慣の見直しこそが、最も基本的で持続可能な治療であると考える。肥満に限らず、多くの病気において、生活習慣の改善という日ごろの地道な取り組みが最も重要な治療の第一歩であると、肥満治療薬の副作用を考えながら、あらためて確信させらている今日この頃である。

*https://www.hawaiinisumu.com/news/523

**https://www.cdc.gov/bmi/adult-calculator/bmi-categories.html

***https://my.clevelandclinic.org/health/treatments/13901-glp-1-agonists