うつ病は、私が精神科の中で最も多く診療する病気の一つです。誰でも気分が落ち込むことはありますが、うつ病は一時的な落ち込みとは異なり、生活に大きな支障をきたす病気です。
精神科では、精神疾患の診断基準を参考にして診断を行います。うつ病の診断には、それまでの自分の状態から変化した症状が2週間以上続き、次の9項目のうち5項目以上が当てはまる必要があります。そのうち少なくとも「気分の落ち込み」または「これまで楽しめていたことへの興味や喜びの喪失」のどちらかが含まれていなければなりません。
- 気分が落ち込む
- 今まで楽しめていたことに興味や喜びを感じなくなる
- 食事制限をしていないのに体重が増えたり減ったりする、または食欲が大きく変化する
- 不眠、または寝過ぎる
- 周囲の人にもわかるほど落ち着きがなくなったり、動作や話し方が遅くなったりする
- 疲れやすい、または気力が出ない
- 自分には価値がないと感じたり、過度な罪悪感を抱いたりする
- 集中力や決断力が低下する
- 死について繰り返し考えたり、「生きていたくない」と感じたり、自殺について考える
さらに、これらの症状によって仕事や家庭生活、学校生活などに支障が出ていること、薬物や身体の病気による症状ではないことが必要です。また、これまでに躁状態や軽躁状態を経験していないことも確認されます。
日本では、生涯で約6%の人がうつ病を経験すると報告されています。[i] 一方、アメリカでは研究によって異なりますが、およそ20.6%と報告されており、日本より高い傾向があります。[ii] この違いには、いくつかの理由が考えられています。
まず、文化の違いです。日本では精神的な不調を周囲に打ち明けにくく、「まだ頑張れる」と我慢してしまう人も少なくありません。
次に、精神疾患に対する偏見です。以前より改善してきていますが、うつ病に対する偏見は日本ではまだ残っており、受診をためらう人もいます。
また、診断や受診行動の違いも考えられます。アメリカでは精神科を受診することへの抵抗が比較的少なく、早い段階で診断されることがあります。一方、日本では症状がかなり重くなるまで受診しない人もいます。
さらに、社会的なつながりの違いも影響している可能性があります。日本では地域社会や家族とのつながりが比較的強い地域もありますが、アメリカでは個人主義がより強く、人によっては孤立しやすい環境になることがあります。ただし、これらはあくまでも可能性であり、どれか一つが原因と断定することはできません。
最近、野菜や果物とうつ病の関係について興味深い研究が報告されました。約30万人を対象とした研究をまとめた解析では、野菜や果物を多く食べる人ほど、うつ病のリスクが低い傾向がみられました。[iii]
この研究では、野菜や果物を多く摂取している人は、摂取量が少ない人と比べて、うつ病のリスクが約37%低いという結果でした。また、野菜や果物を1日に200g多く摂取するごとに、うつ病のリスクは約16%低くなることも報告されています。野菜だけでは約12%、果物だけでは約16%のリスク低下との関連が認められました。
ただし、この研究は観察研究をまとめたものであり、「野菜や果物を食べればうつ病を予防できる」と証明したわけではありません。野菜や果物をよく食べる人は、運動習慣や睡眠、喫煙・飲酒など、他の健康的な生活習慣も持っている可能性があるためです。
それでも、野菜や果物を多く食べることが、心の健康にも良い影響を与える可能性は十分考えられます。
日本人のうつ病が比較的少ない理由の一つとして、食文化も関係しているのかもしれません。近年は日本でもファストフードを食べる機会が増えていますが、特に地方では野菜や魚を中心とした伝統的な食事が今でも多く残っています。
また、日本では家族や地域とのつながりが比較的強く、困ったときに相談できる人が身近にいることも少なくありません。このような社会的な支えも、心の健康を保つうえで大切な要素と考えられます。
アメリカで暮らす日本人は、忙しい生活の中で食生活が欧米化し、人とのつながりも少なくなりがちです。そのため、意識して野菜や果物を取り入れること、そして家族や友人、日本人コミュニティとの交流を大切にすることは、心の健康を保つうえで役立つかもしれません。
また、「気分の落ち込みが続く」「何をしても楽しめない」「何もする気が起きない」といった症状が続き、自分だけでは改善できないと感じたときは、一人で抱え込まず、早めに精神科や心療内科、カウンセリングなどの専門家に相談することをお勧めします。うつ病には、薬物療法や心理療法(カウンセリング)など、効果が期待できる治療法があり、早めに治療を始めることで回復しやすくなることがわかっています。
心の健康は、体の健康と同じくらい大切です。毎日の生活を充実させ、人生の質(Quality of Life)を高めるためにも、心の不調を感じたら早めにサポートを受けることをためらわないでほしいと思います。
もちろん、うつ病は食事だけで予防できる病気ではありません。しかし、バランスの良い食事、十分な睡眠、適度な運動、そして人とのつながりは、心と体の健康を支える大切な生活習慣です。毎日の小さな積み重ねが、将来の心の健康につながるのではないかなどと考える今日この頃です。
[i] Ishikawa H, Kawakami N, Kessler RC; World Mental Health Japan Survey Collaborators. Lifetime and 12-month prevalence, severity and unmet need for treatment of common mental disorders in Japan: results from the final dataset of World Mental Health Japan Survey. Epidemiol Psychiatr Sci. 2016 Jun;25(3):217-29. doi: 10.1017/S2045796015000566. Epub 2015 Jul 7. PMID: 26148821; PMCID: PMC5144586.
[ii] Hasin DS, Sarvet AL, Meyers JL, Saha TD, Ruan WJ, Stohl M, Grant BF. Epidemiology of adult DSM-5 major depressive disorder and its specifiers in the United States. JAMA Psychiatry. 2018;75(4):336-346. doi:10.1001/jamapsychiatry.2017.4602.
[iii] Zamanian N, Torabinasab K, Moradi Baniasadi M, et al. Association between fruit and vegetable intake and risk of depression: a systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies. J Affect Disord. 2026;414:122291. doi:10.1016/j.jad.2026.122291.
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