12. 小児診療について
1. 総論
米国の小児科は日本と同様に、新生児から18歳ぐらいまでを診察します。特にワクチンや健康診断など定期的な診療が必要となるために、良い小児科医を見つけることが大切となります。
2. 各論
2-1. アメリカの小児健康診断(Well Child Visit)
日本のように、産科、保健所や学校での集団健診がないアメリカでは、小児の健診と予防接種は、すべて小児科(または家庭医)の診療所で、個々に予約を取って行われます。予約を取ったり、自己負担があったりと、やや日本との違いに戸惑われるかもしれませんが、アメリカでは小児科医や家庭医の教育における健診の比重は高く、とてもきめ細かい健診を提供します。ほとんどの健康保険で、規定の健診と予防接種はカバーされますので、ぜひ予約をして主治医に定期的に診てもらってください。雰囲気の良い小児科オフィスは、現地のネイティブのママさんたちと知り合いになる絶好のチャンスでもあります。
健診の主な目的
- 小児の順調な成長と発達を確認し、異常が見られたら出来る限り早く、必要な検査や専門家への紹介を行い、迅速に治療・療育プランを作る。
- 面接と診察、さらに有効性が確立しているスクリーニングテストも実施することで、慢性疾患の兆候を早期に発見する。
- 児の成長発達段階に応じた、子育て・事故防止・栄養・教育などのアドバイスを行う。
- 家族関係や家庭の社会経済的状況を、子供の健全な成長発達の観点から評価し、必要なアドバイスと援助を行う。
- 児の月齢、年齢に合わせた予防接種を行う。
特に就学時やキャンプなどの学外活動への参加する際に、小児科医の診断書が必要になります。
多くのオフィスでは、定期的に健診を受けている児であれば、カルテから診断書に必要なデータを使い書類を作成してくれることがほとんどで、あらためて受診する必要はありません。
小児科オフィスの形態は様々です。病院内のクリニックもあれば市中の独立したクリニックもあります。小児科医が一人で営業しているところから10人以上のグループプラクティスもあります。グループプラクティスの長所は、主治医が休診日でもパートナーが診てくれますし、土曜日も空いていたりします。一方で、少人数のプラクティスの場合、主治医やパートナー、そして他の従業員も、お子さんと家族の事を良く知っていてくれて、とても家庭的な雰囲気になります。
どこのクリニックも、多くの専門医や、高度な検査や入院診療ができる病院と提携していますし、一度診たことのあるお子さんに対しては24時間対応をしてくれる小児科医も多いですので、クリニックは自宅の近くで、相性の良い所を選ぶのが一番です。ただし、慢性の病気を持つお子さんの場合、専門医との連携がスムーズなクリニックを選ぶ必要があります。まず専門医を選び、その先生から連携の良い小児科医を紹介してもらうというのも、ひとつの方法でしょう。
アメリカ小児科学会(American Academy of Pediatrics)の推奨する、小児健診のスケジュール(アメリカ小児学会推奨)を参考にしてください。
参考図書:Steven P Shelov, MD著”Caring for your baby and young child”:アメリカ小児科学会の大御所のShelov先生の書かれた、ベストセラー育児書で、アメリカ小児学会の公式出版物です。
2-2. アメリカの予防接種(Immunization, vaccination, shots)
アメリカの予防接種は、種類や回数が多く接種率が高いのが特徴です。就学時や、キャンプなどの学外活動に申し込む際など、規定の予防接種を受けている証明の提出を求められることがあります。予防接種についてはいろいろな考え方があると思いますが、小児科医の筆者はアメリカで推奨されている予防接種をすべて受けることをお勧めします。
1年未満の滞在であれば、日本ではまだ入手不可能な予防接種もあり、日本の予防接種に合った形で予防接種をお願いすることも必要かもしれません。 また、アメリカでは、一度に複数の注射を行うことが一般的です。これも、一度に一種類の注射しかしない日本とは好対照ですが、副作用が増えるというデメリットはありません。さらに、小児科医によって、使用する混合ワクチンタイプ(4種混合、5種混合などもあります)が異なり、接種スケジュールに違いがありますが、結果的にカバーされる病気は同じになります。
また、インフルエンザウイルスワクチンは生後6ヶ月から接種可能です。抗インフルエンザ薬が何種類か登場しましたが、まだ効果や副作用の点から、完璧な薬とはいえません。やはり、毎年の予防接種が大切です。日本人はインフルエンザで劇症になる体質ではないかと考えられているので、ぜひ毎年の家族行事にしましょう。(インフルエンザウイルスとインフルエンザ桿菌タイプBは全く別の病原体なので、混同しないように注意してください)
アメリカでの予防接種はアメリカ小児科学会(American Academy of Pediatrics)および CDC(Centers for Disease Control and Prevention,疾病管理予防センター)の勧告に基づいて行われていいます。https://www.cdc.gov/vaccines/schedules/hcp/imz/child-adolescent.html#birth-15で最新版を見ることが出来ますので、一度ご覧になって下さい。
また、最新のものではありませんが、第3者機関がこれらのパンフレットの一部の日本語訳を作っています。http://www.immunize.org/vis/vis_japanese.asp
受診の際は、予防接種記録を持参するのですが、テキサス州では独自の電子予防接種記録システム, Immtrac2(任意登録)を持っていますので、そこに登録しておいて必要なときに記録をもらえるシステムになっています。
ワクチン概要
- インフルエンザウイルスワクチン:生後6ヶ月から接種可能。乳幼児初回は2回接種、その後は年に1回。秋にその年度の流行予測をもとに生産されたワクチンが発売されるので、10月に入ったら予約してください。
- B型肝炎ワクチンは、母親が感染状態の場合は、別の予防方法になります。合計で3回接種になります。
- ポリオワクチンは、多くの他の先進国と同様アメリカでは注射です。
- ロタワクチンは経口型です。
- ジフテリア、破傷風、百日咳は、3種混合(DTaP)として、混合接種。
- 麻疹、おたふく、風疹、水疱瘡は、3種混合(MMR)または4種混合(MMRV)として混合接種。
- 11歳以降の破傷風と百日咳のブースターは2種混合(Tdap)として、混合接種。
- インフルエンザ桿菌タイプB・B型肝炎の2種混合ワクチンや、ジフテリア・破傷風・百日咳・ポリオ・インフルエンザ桿菌タイプBの5種混合も使用可能。
- 髄膜炎菌、パピローマウイルス(女子の子宮頸がん予防)の予防接種の適応に関しては、まだ議論のあるところなので、小児科医と話し合ってください。
- 詳しくは、予防接種0-6歳スケジュール および 予防接種7-18歳スケジュールを参照してください。
BCGに関して
BCGは、現時点では結核菌に対する予防効果が認められた唯一の生ワクチンです。世界的に使用されていますが、結核の低蔓延国ではBCG接種を義務づけず、あるいは限定して接種をしています。例えば、アメリカでは乳幼児に対してBCG接種を行ないません。このため、日本人がアメリカに留学や仕事で渡航する場合には、BCGが原因でツベルクリン反応が陽性であったとしても、結核菌の‘保菌の可能性あり’とみなされてしまいます。この場合には胸部X線検査を受けて肺結核でないことを証明しないと、入学等を拒否される恐れがありますので注意が必要です。アメリカの医師でも知らないことがあるので、日本人として知っておきましょう。クオンティフェロン(QuantiFeron)またはT-spot TB などは、BCGの影響を受けませんので、検査が必要な場合はこちらの血液検査をすることをお勧めします。
2-3. アメリカでこどもが病気で受信するとき(Sick Visit)
アメリカでこどもが急性の病気になったときに受診する施設:
- 小児科クリニック(診療所)
- 家庭医クリニック(診療所)
- 救急対応クリニック(Urgent Care)
- 救急センター(Emergency Room)
多くの小児科や家庭医のクリニックは、予約外のSick visitも受け入れています。しかし、営業時間は限られているので、時間外や週末でオフィスがあくまで待てない場合は、救急室を受診することになります。
救急室ではなく、クリニックに行くメリット:
- 主治医との連携がスムーズ。
- 通常、待ち時間が短い。
- その後のフォローアップがしっかりしている。
- 通常、料金が安い。
しかし、場合によっては救急室に行かなければならないケースもあります。その際には、かならず身分証明書や健康保険のカード、待合室での水分補給のための飲み物、携帯電話などを準備して出かけましょう。お子さんに持病があり、薬を飲んでいる場合は必ずすべての薬を持参しましょう。
救急車を呼んだ場合、原則的には最寄りの救急センターに行きます。そこでは、最初にお子さんを診察するのは救急医であることが多く、必要に応じて小児科医が呼ばれるでしょう。
アメリカの救急室では、ほとんどの場合、まず看護師が問診をし検温や血圧測定があり、重傷度によって受診順番が決まります。したがって、軽症や急を要さない症状の場合、数時間待たされることが普通です。症状がひどくなければ、朝まで待って、かかりつけの小児科クリニックに行ったほうが、よほどスムーズなことが多いです。次の選択肢がUrgent Careで、最後の砦がERだと心得てください。
症状別に、対処法や緊急性の目安などをまとめた、日本小児科学会監修のウェブサイト「こどもの救急」は、非常に信頼できるサイトです。ぜひ参考にしてみてください。http://kodomo-qq.jp/(寺島慶太)
3. 日本人に診てもらえる医療機関
ニコラス・エリック・リンゼイ医師
Blue Fish Pediatrics
915 Gessner, Suite 525, Houston Texas, 77024
Phone #713-467-1741
Email: memorial_recepition@bluefishmd.com
<小児感染症専門医 池田先生 2022年:一部改変>