13. 妊娠・出産について

1. 総論 

米国では、産婦人科の医師が病院と提携していることが多く、外来のフォローアップでは個人の医師のオフィスに行くことがありますが、実際の出産の時は病院での出産になることがほとんどです。助産院での出産や自宅出産はかなり稀です。産婦人科医を決めるときには、事前にその医師がどこの病院と提携しているのかを確認することが大切かと思います。また、医師が複数でグループ開業し当直体制を組んで分娩を担当している場合は、分娩の時には主治医のバートナーが担当する場合もあります。

日本国籍を出産時に取得することを考えられている場合には、事前に領事館へ赴き、必要書類を集めておくことをおすすめします。特に、出産直後に出産を担当した医師からサインをいただかなくてはいけない書類があります。 加えて、日本とは違い出産後の入院期間が2日程度と非常に短く、産後の計画もあらかじめ立てておくことをお勧めいたします。

2. 各論

2-1. 妊娠検査薬

生理が予定通り来なかったり、急な体調変化があって、「妊娠かな」と思い当たったら、自分で妊娠検査をしてみましょう。どこのドラッグストアでもHome Pregnancy Testが購入できます。尿を試験紙につけるだけで、最終月経より1ヶ月経っていれば約90%の確率で妊娠を診断できますし、もう1週間待てば約97%まで確率が上がります。今は、自分で妊娠検査薬で確認してから、産科の予約をとるのが一般的なので、妊娠を疑ったら、産科に電話する前にまず自分で検査してみましょう。

2-2. 妊婦検診

アメリカでは正常分娩であっても健康保険が適応されます。妊娠を予定されている方は、必ず加入している保険が、妊婦健診と出産をカバーすることを確認してください。また保険ネットワーク内の産婦人科医(Obstetrics & Gynecology, 通称OBGYN)を選ぶ必要があります。保険ネットワーク外だと保険がきかず、全額自己負担になってしまう可能性もあるからです。保険会社に聞けば、ネットワーク内で家から近い産婦人科医をZip Codeを使って探してくれます。

妊娠前期と中期は月に一回の健診となり、初診時に血液検査、初期に一回・後期の初めに一回の超音波検査が標準的で、日本に比べると超音波検査の回数が少ないです。。また中期には血液検査による胎児のスクリーニング、必要に応じて羊水検査、妊娠糖尿病のスクリーニングなどが行われます。血圧・体重・尿検査は毎回の受診時に行われます。

予定日一ヶ月前からは一週間に一度、診察となります。無痛分娩にするのか計画分娩にするのかなど積極的に主治医と話し合いましょう。また、陣痛がきたと思われる時にどうすればいいのかも必ず聞いておきましょう。

妊婦さんは積極的に配偶者等を妊婦検診に連れて行きましょう。

2-3. 妊娠・分娩教室

産婦人科のオフィスには、各種案内がありますが、アメリカで始めて出産される妊婦さんには、妊娠・分娩クラス受講を強くお勧めします。グループレッスンで配偶者等と一緒に、陣痛・分娩・産後ケアを学びます。ビデオを使ったり、ディスカッションがあったりと、かなりインタラクティブで、アメリカでの出産の流れがよくわかり、アメリカ人の妊婦さんとも交流できます。それ以外にも、赤ちゃんケアや母乳栄養のクラスなども用意されているかもしれません。クラスは有料の場合もありますが、十分その価値があると思います。また、産科病棟は通常無料のツアーを行っているので、ぜひ参加してください。クラスの受講も参加病棟のツアーも通常は電話などでの予約制で、早く埋まってしまう可能性もあるので、出産はまだ先のこと、と思わないで、早め早めに参加しましょう。

2-4. 陣痛から産後まで

(1)陣痛

陣痛が一定間隔(1分以上続く陣痛が5分間隔で約1時間続けば、陣痛はほぼ確立しています)または破水したとき、慌てず産科クリニックに連絡をして指示を仰いでください。陣痛の間隔が離れている場合は、慌てて病院に来ても家に戻ってくださいと言われることもありますから、よくわからない場合は必ず電話で確認しましょう。また入院になってしまいますと、出産が終わるまで口に入れられるのはお水や氷のみ、となりますので、できれば家にいる間に少しでもお腹を満たしておけると、出産時の体力のもととなります。

(2)無痛分娩

陣痛の対処法は人それぞれですが、日本の「痛みに耐えて産んだからこそ子供がかわいい。」という概念はアメリカにはなく、無痛分娩を選ぶ人がほとんどです。無痛分娩とは、麻酔を使って陣痛の痛みを和らげながら出産する分娩方法で、硬膜外麻酔(英語ではepidural block。単にepiduralと呼ばれることが多いです)という背骨にある硬膜外腔という場所に細くて柔らかいカテーテルを挿入し薬を投与する麻酔法で行われることが一般的です。

主治医にどんなオプションがあるのかを、妊娠後期になったら相談し、配偶者等とある程度方針を固めておき、前もって産科医に伝えておくとスムーズだと思います。鎮痛剤は麻酔科医によって打たれますので別料金ですし、たくさん出産が重なっている場合は、すぐに打ってもらえるわけでもないですが、一般に産後の回復は早いと言われています。

(3)分娩と産後

産科に到着して陣痛が確認されると、入院となります。L&D(Labor & Delivery)と呼ばれる部屋で、陣痛待機・分娩・回復までを行います。その部屋に産後(Postpartum)もとどまれる場合もありますし、Postpartumが別の部屋になっている場合もあります。アメリカでは陣痛待機も産後も個室が一般的ですが、追加料金がかかるかもしれません。

分娩に家族が立ち会うのは、とても一般的です。配偶者もそれ以外の家族も、ぜひ予備知識をつけて積極的に分娩を、共に乗り切ってください。赤ちゃんが生まれてくる瞬間をカメラに収めたい、へその緒を切りたいなどの希望は、状況が許す時に相談してみましょう。

経膣分娩で産後順調なら、出産後約2日、帝王切開なら約3-5日後に退院となります。産婦人科医または助産婦が毎日診察に来て、退院日程を決めてくれるでしょう。メディカルセンターの大病院の場合、主治医とそのパートナーと看護師に加えて、研修医(resident)や医学生(medical student)が診療チームに加わることが一般的です。研修医は細目に病室を訪れてくれたり緊急時には真っ先に駆けつけてくれる身近な存在になることが多いですが、、もし医学生や研修医の参加が不安でしたら、いざ入院してから気を使うより、あらかじめ主治医に相談しておくことをお勧めします。

2-5. 新生児ケア

アメリカでは新生児の沐浴はへその緒が落ちてからというのが伝統的です。それまではスポンジで軽く拭くだけのSponge Bathが一般的です。ビタミンKの注射(出血予防)、抗生物質の眼軟膏、へその緒の消毒はスタンダードなケアになります。

1)母乳と人工乳(粉ミルク)

日本では完全母乳(完母)という言葉が一般的であったり、「授乳は母乳であるべきた、母乳の方が絶対によい」という母乳信仰がある一方、アメリカでは、産後数週間後に仕事に復帰する女性が多いことや文化の違いなどもあり、人工乳を選択する女性が日本より多いです。

栄養学的、医学的には、いくつかの点に注意すれば「どちらでも大丈夫」です。主な注意点として、初乳と言われる出産直後から10日目くらいの母乳には免疫グロブリンIgAが多く含まれ、赤ちゃんを感染から守ってくれるので、出産後10日目くらいまでは少なくとも母乳を飲む大きなメリットがあります。母乳は素晴らしい栄養で、将来のアレルギー疾患の発症が少ないとは言われていますが、ビタミンKが少ないので健診時にビタミンK剤を赤ちゃんに飲ませます。人工乳にはビタミンKや鉄分が多く含まれています。人工乳は費用がかかる一方、父親や第三者が赤ちゃんにあげることもでき、父親の育児参加を促進する、女性の負担を減らす、仕事と両立をしやすくなるなどのメリットもあります。

母乳を搾乳しておいて保育園で搾乳した母乳をあげてもらう母親もいれば、人工乳を早くから取り入れる母親もいるし、両者を併用する母親もいます。

産科病棟には授乳コンサルタント(Lactation Consultant)が常勤しているはずですから、どんどん相談してください。母乳の出が悪いから自分が悪いと責めるのではなく、ご自分の健康状態やライフスタイルに合わせて選択しましょう。母乳でも人工乳でも赤ちゃんへの愛情に変わりはないのです。

(2)割礼(Circumcision)

アメリカでは出生直後に行われることが割と多いですが、医学的な適応については議論も多く全く義務ではありません。希望すれば、別料金で2日目くらいにしてもらえます。

(3)小児科医

赤ちゃんも退院後はかかりつけの小児科医が必要になります。出産までに、小児科医はお決まりですか、と聞かれるので、赤ちゃんの主治医を決めておけば、産科病棟に主治医となる小児科医またはそのパートナーが診察に来ます。候補の小児科医がいる場合、通常は生まれてから電話して健診の予約を取って下さいと言われますが、出産前にクリニックに電話をして受付の様子やクリニックの混み具合を把握しておくのが無難です。小児科医が決まっていない場合やその小児科医がお産する病院で働いていない場合は、その病院と契約している小児科医が退院まで診察してくれますし、そこで出会った小児科医に主治医を紹介してもらってもよいでしょう。

(4)チャイルドシート

退院時にはチャイルドシートの使用が義務付けられていますから、妊娠後期までには準備し練習しておきましょう

2-6. 助産師(midwife)

看護師が助産師になるためのコースを受講し資格試験に合格すると助産師になれます。正常分娩を担当し、妊婦健診や分娩の介助だけでなく、婦人科系ガン検診や婦人科疾患の治療薬の処方など仕事の範囲は多岐にわたります。

2-7. 出産ドューラ

産前産後ケアの専門家のことで、妊娠中は、情報提供したり不安な気持ちに耳を傾け妊婦に寄り添い、産後は家事や赤ちゃんのケアなど新しい生活がうまくいくようサポートします。

2-8. 役立つ情報

Birth and Beyond 360 (BB360) 海外で妊娠・出産・産後を迎える方が、少しでも安心してその時期を過ごせるようにサポートし合うコミュニティ。

3. 日本人に診てもらえる医療機関

ヒューストンに日本人の産婦人科医はいませんが、大きな病院ではタブレットや電話での無料通訳サービスが利用できます。

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