17. アレルギー診療について

1. 総論

アレルギー科は、アレルギー性鼻炎、喘息やアトピー性皮膚炎、蕁麻疹などのアレルギー全般を診療する科です。成人だけでなく小児のアレルギーもアレルギー専門医が治療します。病歴に加えてプリックテストやパッチテストといった皮膚のテスト、スパイロメトリーなどにより、より専門性の高い治療を行う診療科です。

日本のアレルギー科ではあまり提供されていないようなアレルギー減感作療法も、アメリカでは一般的な治療として提供され、多くの場合は医療保険でカバーされます。

2. 各論

2-1)アレルギー性鼻炎について

花粉症は花粉によるアレルギー鼻炎、もしくは結膜炎様の症状の総称ですが、ヒューストンでは1月にもうスギの花粉シーズンが始まっています。主に2-5月にかけて本格的なシーズンがやってきて、秋の9-10月頃にも二相目のピークを迎えます。木だけではなくイネ科や雑草の花粉に加えて、カビの胞子、イエダニ、動物の毛なども原因となりますので、アレルゲンは花粉だけではありません。

日本でもアメリカでも、アレルギー性鼻炎の患者さんの割合は全人口の25-50%とされておりますが、年々アレルギー患者さんは増加の一途を辿っています。昨今では何らかのアレルギーを持っていない人のほうが珍しくなってきました。

(1)背景 いつから、どうして花粉などに反応してしまうのか?医学的なバックグラウンド

(2)症状 鼻水や目のかゆみだけではないのです

(3)検査 スキンテスト、血液検査

(4)治療 ライフスタイル、薬物治療、減感作療法など

(1)背景

アレルギー性鼻炎・結膜炎は上記のように、原因として花粉だけでなく、カビの胞子やイエダニ、ネコ、イヌのアレルゲンなども同じ病態を惹起します。そのなかでも、花粉による季節性のアレルギー性鼻炎・結膜炎を特に花粉症と称します。ちなみに英語ではhay feverといいますが、hay(藁)もfever(発熱)も関係ありません。

そもそもどうして花粉症なんていう病気が発生してしまうのでしょう。太古の昔から我々人類は木や草の花粉と共生してきたではありませんか?50年前には花粉症が社会問題になるなど、誰も予想だにしませんでした。

花粉症の歴史をたどると、主に19世紀に始まるとされ、産業革命の真っ只中であった北米やヨーロッパで頻発していたことが記述されています。すると大気汚染が関係していることが想像できますが、確かに先進国や都市部では花粉症や副鼻腔炎の発症率が高いとされています。ただ大気汚染だけではなく、家族歴・遺伝子の関与、衛生的な環境による感染症発症の低下、都市環境や住環境の変化など複合的な因子であろうと予測されておりますが、はっきりとはわかっていません。

花粉症患者さんは、ご家族にも花粉症をお持ちの方が多いのですが、具体的に遺伝子を特定したり、ましてや治療に応用したりという域にはまだまだ達しておりません。また昔は結核や腸チフスなど感染症の罹患率が高かったのですが、先進国における罹患率は低下し、結果免疫系統がよりアレルギー反応を起こしやすくなるとする説があります。かといって都市部でも結核の多いスラム地区に、喘息や花粉症が多いという事実があり、衛生面だけではアレルギー発症の説明にはならないことがわかります。またアスファルト舗装の道路が増えて、花粉が吸着されるような土の土地面積が減ってしまった結果花粉が空気中を舞い続けるという原因も考えられます。コンクリート住宅によって、イエダニやカビが増殖した環境に居住する結果となったのも、つい数十年内のことです。

花粉は鼻や口から吸ったあとに粘膜に捉えられ、内部に含まれた微量のタンパク質が溶け出し、それをマクロファージという細胞が貪職して消化します。その後タンパク質の断面はマクロファージの表面に提示され、そこからをT細胞やB細胞の影響をうけてアレルギー反応が引き起こされます。この反応のカスケードの終点は肥満細胞や好塩基球からヒスタミンなどが顆粒から分泌され、鼻がむずむずかゆくなったり、涙が出てきたりといった花粉症の症状を引き起こします。

(2)症状-涙目や鼻水だけではないんです。

花粉症の症状として代表的なのは、目のかゆみ、涙目、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、鼻のかゆみ、といったところでしょうか。その他にも鼻水あるいは鼻からの粘液がのどを伝わっていく後鼻漏、またそれによるのどのかゆみや痛み、咳払い、あるいは慢性のせきなどもよくみられます。その他耳のかゆみ、耳のかゆみや圧迫感、耳鳴りなど耳に知覚されたり、鼻閉や鼻腔や副鼻腔の炎症が頭痛を引き起こしたりする場合もあります。こういった症状はかぜの症状とよく似ていますが、かぜは数日で回復することが殆どであるのに対し、1週間、2週間と続くようであれば、アレルギーによるものである可能性が高くなります。

またすでにアレルギー性の疾患のお持ちの方は、鼻炎や結膜炎の悪化とともに併発しているほかのアレルギー疾患も同時に悪化してしまうことが懸念されます。喘息やアトピー性皮膚炎などが代表例です。呼吸が苦しくなったり、咳が出たり、皮膚がかゆくなったりします。

こういった症状は間接的に睡眠不足や集中力の低下につながり、仕事や学業での生産性を低下させます。また外出を避けることによってレジャー産業などを中心に経済の低下にもつながります。また感覚が鈍くなることによる危険回避能力の低下につながり、例えば運転が必須のヒューストンでは事故の原因にもなりかねません。そこで、的確に診断・治療していくことが大切になってきます。

(3)検査方法

大きく分けて、皮膚で行うテストと血液検査の2種類があります。血液検査は様々な種類のアレルゲンに対してテストができますが、決定的な欠点は必ずしもアレルギーかどうかを鋭敏に判別できないことにあります。つまり数値が高くてもアレルギーが無かったり、逆に数値が低くても実はアレルギーがあったりする場合も多く見られます。皮膚で行うテストは、花粉症の場合は即時型の反応を見るので、20分待てば皮膚の反応をみて結果がわかり、針を使うこともなく侵襲が少ないので、小さいお子さんにも比較的施行しやすいテストです。

(4)治療

アレルギー性鼻炎に対しては点鼻のステロイド薬が一番効果的です。加えて経口や点鼻の抗ヒスタミン薬も効果的です。アレルギー性結膜炎に対しては、抗ヒスタミン薬の経口や点眼薬を試みますが、それでも症状がコントロールされない場合はステロイド点眼薬を使用することもあります。

こういった投薬治療に加えて、根本から治療する方法もあります。薬を中止すれば症状が元に戻ってしまうのに対し、アレルギーを元から治療して、アレルギー反応を起こさないように免疫反応を抑えるアレルギー減感作療法です。最近日本でも、皮下注射や舌下に液体や錠剤を入れて治療するこの減感作療法が注目を集めています。皮下注、舌下いずれも即効性はなく、長期の治療になりますが、舌下の方法は自宅で手軽にできるのが最大の魅力でしょう。皮下注射はアメリカにおいてはスタンダードな治療法で、花粉症に対する効果に加え、喘息やアトピー性皮膚炎にも効果があることがわかっています。

2-2) 喘息について

まずはクイズを3問お試しください。OX、正しいか間違いかの2択です。

  1. 私は夜中や運動後、あるいはネコの近くにいるとよくせきをするのですが、ゼイゼイヒューヒュー呼吸の音がしたことはありません。よってこれは喘息ではありません。
  2. うちの子はまだ小さいので喘息がありますが、成長して大きくなれば治ると思います。
  3. 発作時に使用するインへーラーは毎日使用して、喘息の症状が出ないように予防しています。

いかがでしょうか。正解は。。。すべて間違いです。

昔は入院治療や重症例、死亡例も多かった喘息ですが、現在は薬物治療を適切に行うことで殆どの場合は外来でコントロールできる疾患となりました。

現在アメリカでは約2500万人の喘息患者さんが存在し、このうち約半分の1300万人の喘息患者さんが喘息発作を年に1回は経験していると報告したという統計があります。厚生労働省の統計では日本に450万人の喘息患者さんが存在し、増加し続けています。社会に与えるインパクトは今後も更に大きくなっていくことが予想されます。ですが、同時に適切な診断や管理でコントロールされることが多い疾患でもあります。

  1. 典型的な喘息の臨床像は、アレルギーの既往が複数あるお子さんが運動時や夜中にゼイゼイヒューヒューと呼吸をするイメージでしょうか。しかしその他の症状として、せき、胸部の圧迫感、呼吸困難なども挙げられます。1980年位から咳が前面にでている咳喘息という概念が浸透し始めましたが、咳がメインで始まって典型的な喘息に移行していく場合も多いです。よって、こちらは誤りXです。非常に軽度な場合もあれば、増悪因子が引き金となって急に重症化する場合もあります。呼吸器症状が週に2回以上自覚される場合は、医療機関を受診するべきでしょう。喘息を診断する際は、臨床症状に加えて肺機能検査やアレルギーのスキンテストなども行い、総合的に判断します。
  2. 小児喘息の予後についてですが、喘息の症状が成長するにしたがって軽快していく様に見受けられることはあるかもしれませんが、減感作療法など根本の治療をしないで、薬物治療による症状のコントロールを継続していくうちに完全に喘息が無くなることはむしろ例外的と考えられます。症状が自覚されない期間においても、検査をしてみると肺機能が低下していたり、気道の過敏性が亢進していたりすることが多いと報告されています。成人や思春期の患者さんで呼吸症状がある場合、遡ると幼少時に喘息様の症状を有していたことも多いものです。小児喘息はなかなか診断が難しい場合もあります。アレルギーの既往歴や家族歴があったり、呼吸困難が顕著な場合はより強く疑われますが、なんとなく風邪を引きやすい、疲れやすい、眠りが浅い、といった症状だとかならずしも喘息が鑑別診断に入ってこないでしょう。また大人であれば症状の説明もより具体的ですが、軽く胸がつまっているような痛いような症状を幼少のお子さんが説明するのは難しいかもしれません。
  3. 発作時に使用するインへーラーは短時間作用型ベータ2作動薬という種類の薬で、狭くなった気道を拡張する効果があります。日本ではサルブタモール(サルタノール、ベネトリン)、プロカテロール(メプチン)など、アメリカではAlbuterol ( ProAir, Ventolin, Proventil ),  Levalbuterol ( Xopenex )などが挙げられます。使用を繰り返していると数週間くらいで薬効が落ちて来ます。この現象をタキフィラキシーと呼びます。気道の拡張の作用が落ち、また効果が持続する時間が短くなります。ですので、インへーラーは症状が出たときのみに使うことが大切です。特殊な場合を除けば、医師の指示の下で無い限りインへーラーは必要がなければ使わないほうがよいのです。ですから、上記の質問3.の答えも×になります。では何回まで使っていれば様子を観察をしていてもよくて、何回以上使っていると何かアクションを起こしたほうがいいのか、つまり医療機関を受診したほうがよいのでしょうか。週に2回以上症状が出る場合は、喘息の管理方法を見直す必要があります。

2-3) 食物アレルギーについて  

食物アレルギーは重症度にばらつきがありますが、重症な反応では死に至ることも可能性としてはあります。そういった重症な食物アレルギーを起こす可能性が高い食物として8食品が挙げられます。アメリカでは牛乳、卵、甲殻類、小麦、大豆、ピーナッツや木の実類で重篤な食物アレルギーの90%を占めるといわれています。日本ではこのリストにソバやイクラが加わるでしょう。呼吸が苦しくなったり、蕁麻疹が出てきたり、嘔吐したり、血圧が下がって立ちくらみのようになったりもします。アメリカにいる子供のうち、4-6%は食物アレルギーを持っていると報告されており、約9割の学校で食物アレルギーを持つ生徒が一人以上いると回答しています。

軽度の食物アレルギー反応が幼少のお子さんに起きた場合、なかなかわかりづらいことも多いかもしれません。特に皮膚症状が無く、お子さんも何が起きているか説明するのが難しい症状も起こり得ます。口や舌がおかしい、唇がきつい感じ、のどに何か刺さっているような感じ、舌に何かが刺さっているような感じ、といった症状を訴えたときは、食物アレルギーも疑います。学校での緊急時の対応をスクールナースに確認することは非常に大切ですので、食物アレルギーのお子さんのいるご家庭では、薬が学校に置いてあるか、薬の有効期限は切れていないか、今一度確かめられることをお勧め致します。

アナフィラキシー反応が起きたときにはなるべく早くエピネフリンを注射することが重要になります。初発の症状が学校や旅行中など、ご自宅以外の場所で起こることもあり得ます。飛行機では常備することを義務付ける法律があります。除細動器(AED)と同じ様にエピネフリンも少しずつではありますが、公共の場所でも使えるようになりつつあるようです。

上記の情報はあくまでも一般的なものですので、個々人の症状やその治療については必ず医師にご相談ください。

3. 日本人に診てもらえる医療機関

3)日本人に診てもらえる医療機関

Center for Allergy & Asthma of Texas

https://www.center4allergy.com/japanese

小川 リール 好子先生

MemorialとWoodlandsにて診療、テキサス州内のオンライン診療もしております。

<最終更新日:1/2023 アレルギー専門医 小川 リール 好子>

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