3. かかりつけ医

アメリカでは、かかりつけ医(Primary Care Physician (PCP))という言葉がよくでてきて、日本でもかかりつけ医をもとうという流れがありますが、まだまだ、日本人にとっては馴染みのない言葉です。この章では、かかりつけ医について説明していきます。

1. かかりつけ医とは

一つの病気だけを診るのではなく、患者の全体像を把握し、その患者の医療管理の中心となる医師のことを言います。何か健康上の問題が起きた時にまず対応し、必要があれば専門医を紹介するのが大きな役目です。同じ患者と医師が長い付き合いを持つことで信頼関係を築き、それぞれの患者の病歴や価値観、社会的背景を踏まえて治療やアドバイスを提供するので、継続性を重視します。

アメリカでは健康であっても誰もがかかりつけ医を持ち、一年に一回(大人では)健康診断に行くことが推奨されています。

2. かかりつけ医になれる診療科

家庭医療科(Family Practice)、内科(Internal Medicine)、小児科(Pediatrics)、そして産婦人科(OBGYN (obstetrics/ gynecology))の医師がかかりつけ医になれます。家庭医療科は大人と子供の両方を診れ、産科(正常分娩)もできます(産科も研修しますが、指導医として働く時、全員が産科をし続ける訳ではありません)。内科は大人だけ診れ、子宮頸がん検診(pap smear)や単純な婦人科疾患を診る内科医もいます。産婦人科医は基本的には婦人科疾患や婦人科健診を担当します。かかりつけ医のパターンとしては以下のようになります。

  • 成人男性のかかりつけ医:家庭医療科医(家庭医)のみ、または内科医のみ
  • 成人女性のかかりつけ医:家庭医療科医のみ、内科医のみ、家庭医療科医+産婦人科医、内科医+産婦人科医
  • 小児のかかりつけ医:家庭医療科医、または小児科医

3. かかりつけ医の具体的な役割

①定期健診(check up)

生まれたばかりは頻回に健診に行き、段々間隔が開いていきます。大きめな子供と大人は年に一回と決まっていて、保険でカバーされます。体重、身長やバイタルサインを測定し、ガイドラインに基づき予防接種や癌検診などが勧められます。米国の健康診断内容に関しては、ACIPと呼ばれる機関の推奨をもとに行っており、日本とは違い、患者がどの検査を受けたいと選ぶよりは、医師よりこういった検査を受けた方が良いと勧められることが多いです。 

健康増進のために生活習慣を問診したり、うつ病や不安障害などのメンタルヘルスのスクリーニングも行います。何か問題がみつかれば、必要に応じて追加検査や専門医紹介などが行われます。健診時に、普段から悩んでいる医療問題などを相談し、さらに検査をするべきか薬を服用するべきかなどを話し合うこともできます。

<日本とアメリカのがん検診の違い>

日本におけるがん健診

現在日本では、健康増進法に基づき、国によって胃がん検診、大腸がん健診、子宮頸がん検診、肺がん検診、乳がん検診の5つの検診が推奨されています。がん健診は自治体ごとに成人健康診断と同様に行われています。

ほとんどの市町村では、がん検診の費用の多くを公費で負担しているため、無料もしくは一部の自己負担のみで全対象者の住民ががん検診を受けることが出来ます。

胃がん検診

対象:50歳以上(希望者は40歳からバリウム検査は可)

検査:上部消化管造影検査(バリウム検査)もしくは胃内視鏡検査(胃カメラ)

受診間隔:2年に1回(バリウム検査は1年に1回も可)

要精査となった場合は胃カメラで疑わしい部位に対して生検(組織を採取する)を行い、悪性の所見があるかどうかを調べます。胃カメラ検診を当初から選んだ場合はそのまま生検を行うこともあります。

大腸がん検診

対象:40歳以上

検査:便潜血検査(2日分の便を綿棒で採取し、便に混じった目に見えない血液を検出する検査)

受診間隔:年1回

要精査となった場合は全大腸内視鏡検査(大腸カメラ)で精密検査を行います。

アメリカにおけるがん健診

一方米国では、大腸がん健診、子宮頸がん及び体がん検診、前立腺がん検診、乳がん検診らが推奨されていますが、胃がん検診はその発生率の低さから推奨されておりません。米国での生活が長い方は、日本に帰国される際に、推奨された検診を受けられることをお勧めいたします。もし日本への帰国の予定がない等の理由で米国でのがん検診をご希望の方は、家庭医の先生とご相談いただき、適切ながん検診を受けてください。胃がん検診は米国では一般的でないため、胃カメラを受ける際はきちんと保険でカバーされることを事前にご確認されることをお勧めいたします。

②慢性疾患の管理

軽度の高血圧、高脂血症、糖尿病、不眠などそこまで複雑でない病気に関しては、米国では信用のできるガイドラインがあり、それに沿って治療をすることが多く、初期診療に関して大きな差はないと考えられます。かかりつけ医がまず管理し、必要ならば専門医に紹介します。病状が落ち着いていれば、三か月ごと六か月ごとの診察になることが多く、日本よりクリニックに行く回数は少ないです。

③急な問題が起こった時の対応

咳が続く、耳が痛いなど急な問題が起きた時、緊急でなければまずかかりつけ医のクリニックに電話したりポータルサイトからメッセージを送り指示を待ちます。電話やメッセージで対処できることもあれば、診察枠が空いているから診察予約をとるように勧められることもあるし、医師が診察する必要があるけれど予約が埋まっていて対応できない場合は、Urgent careや救急に行くよう勧められることもあります。

4. かかりつけ医を選ぶポイント

①自分の医療保険のインネットワークか?

一度限りの診察なら自費もあり得るかもしれませんが、長いつきあいになるので、事前に必ず保険が利用できることを確認しましょう。

②医師の質、人柄

バラつきがあるので、口コミやネットの評判を調べてみると安心できるかもしれません。レビューがよくても、実際に診察を受けてみて満足できなかったり信頼できなければ変更することはできます。ただ、annual check upは一般的に年に一度保険でカバーされるので、医学的に問題がなければ、かかりつけ医の変更は翌年にするのが無難です。

③連絡の取りやすさ、オフィスの対応

医師の質だけでなく、受付やメディカルアシスタントの質も、患者の満足度に直結します。予約を取る時や服用している薬で副作用が起きて医師に連絡を取りたい時などクリニックに電話することがありますが、なかなか電話がつながらないクリニック、医師に確認したら電話をくれると言ったのに一向に連絡をくれないクリニックなども現実にはあるので、考慮した方がいいでしょう。

④信頼度の高い病院と連携していたり多くの専門医とコンタクトがあるか?

複雑な病気があったり入院することがある方には重要なポイントとなります。
⑤日本語が通じるか、または通訳サービスがあるか

日常英会話に困っていなくても、医療英語は専門用語が交わり分かりにくいことがあるので、必要な時に通訳を頼めると便利です。

<最終更新日:2/2023 福田由梨子>