9. アメリカの処方薬、市販薬
アメリカでも医療関係者が処方する処方薬と処方箋なしに薬局で購入できる市販薬 (Over-the-counter drugs, OTC) に分かれています。この章では、処方薬と市販薬ごとに大事な点と薬局での薬剤師の役割を説明していきます。
1. 処方薬 (Prescription drugs)
医師、ナースプラクティショナー、フィジシャンアシスタントが診察し処方箋を発行するという薬を処方してもらうまでの基本的な流れは日本と同じですが、異なる点が数点あります。
①処方の仕方
古典的には、クリニックで印刷された処方箋を受け取り、患者自身が薬局に持参します。現在は、e-Prescribing (クリニックの電子カルテが薬局と連携していて、患者さんの行きつけの薬局を電子カルテに入力し薬を電子カルテ内でオーダーすると薬局がオーダーを薬局の端末で受け取れる仕組み) が主流です。他に、クリニックが薬局に電話をして薬を処方することもあります。麻薬性鎮痛薬など患者自身が処方箋を直接薬局に持参しないと薬局は薬を渡してはいけないなど、州ごとに自由に処方できないよう規制がかけられている薬もあります。かかりつけ医がいる場合、電話やアプリのメッセージで薬の必要性を伝えると、診察の必要がないと判断されれば、診察なしに薬を処方してもらえることもあります。
②処方日数
数日しか必要でない薬は必要日数分だけ処方されますが、高血圧薬のように長期に渡り服用しなければならない薬は30日、90日単位で処方されることがほとんどです。ずっと飲み続ける場合、30日分を何回も受け取るより90日分を数少なく受け取る方が自己負担金が少ないことが多いので、保険会社や薬局でどうすれば自己負担金が減るか調べ、医師の処方日数の希望を伝えるのもいいと思います。
③薬の自己負担金 (Co-pay)
利用する薬局により薬の自己負担金が変わってくることはよくあるので、事前に保険会社のウェブサイトでどの薬局が一番安く薬を手に入れられるか調べておきましょう。また保険会社によっては、長期に服用する薬はCVS Caremarkなどの配達専門の薬局を利用するよう指定してくることもあります。
④薬の再調剤 (Refill)
日本では薬を処方してもらうために医療機関を受診することは一般的ですが、アメリカでは病状が安定していれば、診察なしに薬を長期間処方することはよくあります。長期の薬は90日分ずつ受け取ることが多いので、一日一回飲む薬を一年分処方する場合、90 day supply with 3 refillsとして処方されることがよくあります。患者さんは、問題がなければ、一年間は医師の診察を受けずに、90日ごとに薬局に薬を受け取ることができ、毎回受け取るごとに残っているRefillの数は減っていきます。最後のRefillを受け取ったあとは、また医師に診察してもらい、必要であればまた薬を処方という形になります。日本でも2022年4月にこのシステムが導入されました。
⑤保険会社からの事前承認 (Pre-authorization)
高価な薬やあまり処方されない薬を医師がオーダーした場合、保険会社が病状説明、代替薬ではなくこの薬でないといけない理由などを医療機関に求めることがあります。医療機関が提出した書類内容に保険会社が同意しなければ、保険会社はその薬代を負担することはありません。簡単な書類で済む場合から保険会社の医師と直接電話で交渉しなければならない場合まで様々で、費やす時間も様々です。薬を処方されたけれどpre-authorizationが必要と言われ時間が経っても受け取れない場合は、自分で保険会社、医療機関に連絡をとり進捗状況を確認する必要があります。
2. 市販薬 (Over-the-counter drugs, OTC)
日本に比べて医療機関へのアクセスが悪かったり医療費が高いため、軽い症状なら市販薬だけで治そうとする人も多いためか、アメリカでは市販薬の種類はより多彩で高用量のものも処方されています。アメリカの薬局では、自社ブランドの製品を豊富に取り揃え、ブランドの製品の隣にやや安価な自社製品を陳列していることが多いです。成分が同じな限り、ブランドの製品も薬局ブランドの製品も効果は同じと考えられています。
以下、アメリカでよく購入される主な市販薬をご紹介します。日本の類似薬も紹介しますが、市販薬は複数の薬が混合されていることが多く、全く同じになることは少ないので、ご自身で各成分をご確認下さい。また、注意事項は必ずお読みください。
解熱鎮痛剤
市販薬名:アドビル(Advil) 効能、注意点:解熱、風邪、頭痛、歯痛、筋肉痛、生理痛の緩和など。イブプロフェンと日本語で言われているが、アメリカではアイビ-プロフェンと発音されている。飲みすぎで副作用が起こることがあるので、高用量の長期使用は医師に相談して下さい。 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:イブ、エコルネ、フェリア、リングルアイビー |
市販薬名:タイレノール(Tylenol) 効能、注意点:解熱、頭痛、筋肉痛、神経痛、リウマチ、生理痛お緩和など。イブプロフェンより効きは弱いことが多い分、副作用も少ない。肝臓疾患がある人は医師に相談して下さい。 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:バファリン・ルナ、タイレノール |
風邪薬
市販薬名:ロビタシン (Robitussin) 効能、注意点:咳や鼻水など、鼻・喉の風邪に対応。症状に応じて多数の種類があり、薬の形状もシロップと錠剤がある。 |
市販薬名:デイキル (DayQuil) 効能、注意点:総合感冒薬。症状に応じて多数の種類あり。 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:ルル |
胃腸薬
市販薬名:イモディウム (Imodium) 効能、注意点:下痢止め。下痢がひどい場合は医療機関の受診をお勧めします。 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:イノック下痢止め、シグナル下痢止め、ロペラマックサット |
市販薬名:ペプシド (Pepcid) 効能、注意点:胃痛、胃酸過多を抑える、胸やけを和らげるなど。 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:ガスター10 |
市販薬名:タムズ (Tums) 効能、注意点:胃痛、胃酸過多を抑える、胸やけを和らげるなど。カルシウムも補える。 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:キャベジンコーワ、新センロック錠、ザッツ21 |
市販薬名:ペプト・ビズモル (Pepto-Bismol) 効能、注意点:はき気、胸焼け、消化不良、胃のむかつき、下痢などに対応。 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:アクロミンカプセルA |
市販薬名:フィリップス・ミルク・オブ・マグネシア(Phillips’ Milk of Magnesia) 効能、注意点:便秘薬 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:ミルマグ液 |
市販薬名:プリパレ―ションH(Preparation H) 効能、注意点:痔、および肛門の外側の炎症、かゆみの一時的緩和 |
抗アレルギー薬
市販薬名:ジルテック(Zyrtec) 効能、注意点:蕁麻疹、鼻炎、花粉症などのアレルギーの諸症状を緩和。眠くなる薬もあるので注意。子供用もあり。 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:ウナコーワクール、アスゲン鼻炎錠 |
市販薬名:クラリチン(Claritin) 効能、注意点:蕁麻疹、鼻炎、花粉症などのアレルギーの諸症状を緩和。眠くなる薬もあるので注意。子供用もあり。 |
市販薬名:べナドリル(Benadryl) 効能、注意点:蕁麻疹、鼻炎、花粉症などのアレルギーの諸症状を緩和。眠くなる薬もあるので注意。子供用もあり。 |
市販薬名:ナサコート・アレルギー(Nasacort Allergy)) 効能、注意点:鼻炎に効く鼻スプレー |
市販薬名:シスタン ザジトール(Systane Zaditor) 効能、注意点:痒い目のための点眼薬 |
外用薬
市販薬名:コルチゾン10(Cortizone-10) 効能、注意点:アレルギー性皮膚炎、湿疹などに有効 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:ロコイダン軟膏 |
市販薬名:ネオスポリン(Neosporin) 効能、注意点:抗炎症作用、切り傷、かすり傷、やけどの感染症予防に有効 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:ドルマイシン軟膏 |
市販薬名:デスティン(Desitin) 効能、注意点:あせも、おむつかぶれに有効 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:ポリベビー |
市販薬名:ユーセリン(Eucerin) 効能、注意点:万能軟膏。乾燥肌、ひび割れなどに有効 |
市販薬名:ベンゲイ(Bengay) 効能、注意点:筋肉痛、腰背部痛、関節痛などの緩和 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:サロメチール、トクホンVダッシュ |
市販薬名:クリアアウェイ・ワート・リムーバーズ(Clear Away Wart Removers) 効能、注意点:ウオノメ取り |
市販薬名:クロトリマゾ―ル(Clotrimazole) 効能、注意点:水虫薬 |
市販薬名:ニックス(Nix) 効能、注意点:シラミの治療薬 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:スミスリンL シャンプータイプ |
口の薬
市販薬名:アンベソル(Anbesol) 効能、注意点:歯痛、歯肉炎などの緩和 |
市販薬名:アブレバ・コールド・ソア(Abreva Cold Sore Cream) 効能、注意点:口唇ヘルペスの症状を緩和 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:ヒフールAC |
不眠症
市販薬名:ユニソム(Unisom) 効能、注意点:睡眠導入剤。不眠にはうつ病などの病気が隠れていることがあるので、長く続く時は早めに医師に相談して下さい。 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:リポスミン、ドリエル |
市販薬名:メラトニン(Melatonin) 効能、注意点:睡眠導入剤。不眠にはうつ病などの病気が隠れていることがあるので、長く続く時は早めに医師に相談して下さい。 |
乗り物酔い
市販薬名:ドラママイン(Dramamine) 効能、注意点:乗り物酔いの予防と緩和 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:トラベルミン |
婦人科系
市販薬名:クリアブルー(Clearblue) 効能、注意点:妊娠検査薬 色々なメーカーからでています。 |
市販薬名:プランBワンステップ(Plan B One-Step) 効能、注意点:緊急避妊ピル 避妊をしなかった性行為72時間以内に服用し妊娠を防ぐ。妊娠を望まない場合、普段から避妊を心掛けるべきですが、緊急手段として利用されています。 |
市販薬名:モニスタット(Monistat) 効能、注意点:カンジダ性膣炎による痒みを対処 |
禁煙補助薬
市販薬名:ニコレットガム(Nicorette Gum) 効能、注意点:禁煙補助、禁煙時のイライラ、集中困難などの症状緩和。パッチの方が高用量のニコチンが含まれていることが多いです。禁煙外来にかかり内服薬を処方してもらい併用するのも手です。 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:ニコレット・ガム |
市販薬名:ニコデルム(Nico Derm) 効能、注意点:禁煙補助、禁煙時のイライラ、集中困難などの症状緩和。パッチの方が高用量のニコチンが含まれていることが多いです。禁煙外来にかかり内服薬を処方してもらい併用するのも手です。 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:ニコチネルパッチ |
消毒薬
市販薬名:ハイドロジェン・ペロキサイド(Hydrogen Peroxide) 効能、注意点:切り傷、かすり傷、やけどなどの応急消毒用 同成分、類似成分を含む日本の薬剤:オキシドール |
<注意事項>
- この章では、アメリカの主な市販薬に関して一般的な情報を提供しており、個別具体的な薬剤の適応を保証するものではありません。どの市販薬をどのように使用するかは各自判断していただき、自己責任のもとに服用管理してください。
- 基礎疾患のない健康な成人を対象に書かれています。慢性疾患、常用薬のある方、及び高齢者、妊娠中・授乳中の方は主治医と必ず相談の上、市販薬を購入、使用されてください。
- 市販薬も副作用やアレルギー反応を起こすことがあり、他の薬や食べ物と相互作用を持つものがあります。商品ラベルに記載されている注意事項を必ず読み、用法用量などを守って服用して下さい。また、副作用やアレルギー反応が起こった場合は、即座に使用を中止し、医療機関を受診してください。
3)薬局での薬剤師の役割
CVSやWalgreensなどの調剤薬局部門では、薬剤師とテクニシャンが働いています。薬剤師の主な役割は、
- 処方箋を受け付け調剤
- 患者の保険のベネフィット、カバレッジの照会
- 医療機関との連携
- 患者に対し、起こりえる副作用などの薬剤の情報提供と服薬指導
- 予防接種(州によって制限が異なる)
- 新型コロナウイルス感染症検査も含めたドライブスルーの対応
など多岐に渡ります。市販薬も含め薬剤の知識は幅広く、患者側からすれば身近に質問できる頼れる存在です。かなりの数の調剤を裁くため忙しい立場にはありますが、薬剤に対する心配点、疑問など遠慮なく聞いてみましょう。
<最終更新日:1/2023 福田由梨子>