2.アメリカの医療システム

アメリカでは医療従事者や医療機関の種類とそれぞれの役割が日本と異なり、最初戸惑うことも多いので、この章では、アメリカの医療従事者と医療機関について説明していきます。

1. 主な医療従事者

1.医者 (Physician, doctor)

アメリカで医師になるためには、四年制大学を卒業してから4年間の医学部(medical school)に行きます。卒業する医学部により、称号がM.D.であったりD.O.であったりしますが、診察する内容に差はありません。卒業後、初期研修(residency)を経て指導医になります。

かかりつけ医 (Primary Care Physician (PCP))

一般的に、家庭医療科(family practice)、内科 (internal medicine)、小児科 (pediatrics)の研修を卒業し、外来クリニックで患者を継続的に診ている医師を指します。詳細は次の章をご参照下さい。

専門医 (Specialist)

循環器科や感染症科など一般内科研修修了後に更に各専門の研修(fellowship)を修了した内科専門医や、外科や皮膚科などPCP以外の科の医師を指します。最近は専門医研修の種類が益々増え、大病院に行けば行くほど、専門分化が進んでいます。外来クリニックで働いている専門医もいれば、科によっては病院でのみ働いている専門医もいます。

2. フィジシャン・アシスタント (Physician Assistant(PA)

医師の監督下で、簡単な診断や薬の処方、手術の補助など、医師が行う医療行為の一部をカバーする医療資格者で、PAになるためには、四年制大学を卒業してから2年間の専門職大学院を修了し資格試験に合格する必要があります。

3. 看護職

①正看護師(Registered Nurs (RN))

アメリカでは、日本より看護師の社会的地位が確立され専門性が高く、人気の高い職業の一つです。短大や四年制大学を卒業してから資格試験に合格する必要があります。  

ナースプラクティショナー(Nurse Practitione (NP))

看護師(RN)として一定以上の職務経験を積んだものが、専門職大学院を修了し資格試験に合格するとNPになれ、医師が行う医療行為の一部を行います。過疎地で、自ら診療所を開設しPCPとして働くことが可能である州もあります。

③准看護師(Licensed Practical Nurse(LPN)、Licensed Vocational Nurse (LVN))

患者の健康管理や治療のサポートを行い、正看護師や医師の指示のもと業務を行うよう法律で定められています。病院より、外来クリニックや長期療養施設で働いていることが多いです。

④看護助手(Certified Nursing Assistant (CNA))

患者の介助やバイタルサイン測定など正看護師の指示のもと、病院や長期療養施設などで働いています。8-16週間のコースを受講すると資格が取得できます。

4. メディカル・アシスタント (Medical Assistant (MA))

外来クリニックで働いていることが多く、予診をとる、バイタルサインを測定する、採血や注射を行う、書類仕事を行うなどの仕事をします。専門学校や短大で9ヶ月から2年間のコースを受講すると資格が取得できます。

2. 医療施設

1. 病院

アメリカの病院は日本よりも規模の大きい病院が多く、集中治療室(ICU)の割合が高いです。ほとんどが個室ベッドですが、特別室などを要求しない限りは差額ベッド代を請求されません。一日あたり入院費の平均が2,873ドルとものすごい高い、保険会社の要求が厳しいなどの理由から、全米の平均入院日数は4.6日と日本よりもずっと短く、病状が安定していれば、手術前の検査は全て外来で行い手術後に初めて入院する、土日でも夜間でも退院するというように入院期間を短くする工夫が凝らされています。

看護師やスタッフは病院に雇われていることがほとんどですが、医師は病院勤務医もいれば、開業医が病院内で入院患者の診療に携わっていることもあります。

2. 外来 (Outpatient, ambulatory)

救急を除いて、ほとんどの外来クリニックを受診する場合は予約が必要です。 

①かかりつけ医クリニック

 年一回の定期健診 (annual checkup)、慢性疾患の継続外来に加え、急に具合が悪くなった時やケガをした時も予約をとってから受診します。小児科の場合、全ての枠を定期健診で埋めず、急な病気になった子のためのスポットを確保しているクリニックもあります。急に具合が悪くなったけれど、すぐに診てもらえない場合、「アージェント・ケアクリニックに行った方がいい。」「解熱剤を服用して2.3日様子を見るように。」など指示をくれる場合もあるので、救急車にのらなければならない状態でない限り、まずかかりつけ医に連絡するようにしましょう。何人かの医師がパートナーとして同じクリニックで働いているところが多いので、自分のかかりつけ医が出張中でいない、空き枠がない時などパートナーが代わりに担当することもあります。詳しくは各論でさらに説明してあります。

②専門外来クリニック

自分の医療保険やクリニックのルールなどで、かかりつけ医の紹介がないと予約がとれないことが多いです。ほとんど全てが予約診療です。

③予約なしでかかれる外来

1. 救急救命室 (Emergency Department, Emergency Room)

病院に併設されている救急救命室と独立した単体の施設があります。日本の夜間休日時間外診療とは目的が異なります。受付に行くと、住所や保険の登録だけでなく、まず、看護師が怪我や病気の問診を簡単に行い、体温や血圧などのバイタルサインを測定し、重症度をトリアージします。ここで軽症と判断されると何時間も待つことになる傾向があります。

保険がなくても救急救命室を受診できますが、命に関わる状態にすぐ対応できるよう設備を整えたり各科の専門医を常駐させているため、膨大な医療費を請求されることがあります。保険があっても、自己負担額が高額になることがあるので、自分の保険のネットワークの救急救命室はどこか、どのように自己負担額が計算されるのかなど、余裕があれば事前に調べておきましょう。

怪我をしたり急に体調が悪くなった場合、命に関わる状態でなければ、かかりつけ医に連絡したり、以下に述べるアージェントケアやリテールクリニックで対応できる状態かまず調べてみることをお勧めします。ただ、すぐに治療を受けないと生死に関わると思われる場合は、医療費に関わらず、911に電話して救急車を呼ぶのをお勧めします。

<救急車を呼んだり、救急外来に行くべき場合の例>

・急激な胸痛、頭痛や呼吸苦

・麻痺、言葉が出ないなど脳梗塞が疑われる場合

・たくさん出血したり痛みがひどい怪我

詳しい救急車の呼び方などは、各論を参照してください。

<ヒューストンの救急救命室の例>

Houston Methodist Hospital Emergency Department

Baylor St. Luke’s Medical Center Emergency Department

Memorial Hermann Emergency

2. アージェントケア/ アキュートケア・クリニック(Urgent care/ Acure care clinic)

アージェント・ケアやアキュートケア・クリニックは、致命的でない急な病気や怪我を対応し、夜間や休日もオープンしていて、予約なしに受診できるクリニックです。かかりつけ医にかかれない時に利用するという位置付けですが、かかりつけ医として機能している施設もあります。レントゲンや採血ができ、骨折のギブスの固定や傷口の縫合もできますが、CTを撮ったり手術をすることはできません。受診してみて、入院や迅速にさらなる検査が必要と判断され、病院の救急外来を受診するよう勧められることもあります。ナースプラクティショナーやフィジシャンアシスタントが診察することがほとんどですが、ほとんどのアージェントケアには、医者が常駐し、自分自身が診察するのに加え、ナースプラクティショナーやフィジシャンアシスタントの監督もしています。診察料は救急外来より安価です。

<対応可能な病気や怪我の例>

軽度の骨折、脱臼、捻挫

縫合や特殊な包帯が必要な怪我

仕事中の怪我(労働災害)

喉の痛みや熱などの風邪症状

喘息発作

<ヒューストンのアージェントケアクリニックの例>

Lifeline Urgent Care

CareNow Urgent Care

3. リテール・クリニック(Retail Clinic)

リテール・クリニックとは、ウォールマートなどの量販店やCVSなどの薬局に併設された小さな外来クリニックのことで、買い物ついでに予約なしに簡単な診療や薬の処方、予防接種などが受けられる便利さが特徴です。ナースプラクティショナーやフィジシャンアシスタントが診察することがほとんどです。中耳炎などの致命的でない急な病気が対象なので、受診してみて、入院や迅速にさらなる検査が必要と判断され、病院の救急外来を受診するよう勧められることもあります。予約なしで受診できるのはアージェントケアと同じですが、アージェントケアよりもスペースや設備は限られているので、対応できる病気はごく軽症のものに限られ、骨折や縫合を必要とする大きな切り傷は対応できません。受診料が明瞭でアージェントケアよりも安価な傾向にあります。保険がなくても受診料を確認した上で受診することができます。

<ヒューストンのリテール・クリニックの例>

MinuteClinic CVS

<最終更新日:1/2023 福田由梨子>

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