20. 耳鼻・咽喉科診療について

1.総論

1-1) 耳鼻咽喉科・頭頸部外科:Otolaryngology-Head and Neck Surgeryとは?

米国の耳鼻科は、日本の耳鼻科と比べて専門領域が細かく分かれています。取り扱う病気も多少違います。耳、鼻、のど、首に起こる症状や病気を手術で治す事を専門にしています。症状や病気によっては、他科の医者と連携を取って治療にあたります(眼科、脳外科、内分泌科、放射線科、腫瘍専門科、皮膚科、など)。

医療保険の種類にもよりますが、クリニック受診には、プライマリーケア(内科、小児科、家庭医学科、など)からの紹介や、予約が必要な場合が多いです。

1-2) 耳鼻科で取り扱う病気は?

耳鼻科は、耳(otology neurotology)、鼻(rhinology)、のど(laryngology)、頭頸部(head and neck surgery)、睡眠(sleep)、形成(facial plastics)、小児耳鼻科(pediatric otolaryngology)、総合耳鼻科(general otolaryngology)などに分かれています。General otolaryngologyは広く一般的な治療を担当しますが、必要に応じて各専門家に患者さんを引き継ぎします。

聴力検査、補聴器などは専門の聴覚士(Audiologist)が担当します。嚥下や声の評価はSpeech pathologistが担当します。Audiologist やSpeech pathologistは、耳鼻科クリニック内で一緒に診療をしている場合が多いです。

2.各論

2-1) Otology, Neurotology(耳科)が取り扱う症状や病気

  • 難聴、聴力の低下、耳鳴り、耳痛、耳垢
  • 中耳炎、外耳炎、真珠腫など耳の炎症
  • めまい、メニエル病、偏頭痛によるめまい
  • 耳の腫瘍、癌、耳の外傷、顔面麻痺

2-2) Rhinology(鼻科)が取り扱う症状や病気

  • アレルギー、鼻中隔湾曲症、鼻炎、副鼻腔炎、蓄膿症、鼻炎からの頭痛
  • 鼻血、鼻漏、くしゃみ、鼻閉、においの障害

2-3) Laryngology(咽喉科)が取り扱う症状や病気

  • のどの痛み
  • 声のかすれ
  • 胸焼け
  • 嚥下障害や誤嚥
  • のどの腫瘍
  • 気道や声帯の腫瘍

2-4) Head and Neck Surgery(頭頸部外科)が取り扱う症状や病気

  • 顔や首の腫瘍、腫れもの
  • 甲状腺の腫瘍や異常
  • 頭頸部の癌、頭頸部の皮膚癌

2-5) Sleep medicine(睡眠専門科)で取り扱う症状や病気

  • 睡眠時無呼吸症候群
  • いびき

呼吸器科(Plumonary)が担当しているクリニックもあります。

2-6) Facial Plastic Surgery(形成外科)で取り扱う症状や病気

  • 頭頸部の先天性異常
  • 顔面麻痺
  • 顔の美容形成

2-7) Pediatric Otolaryngology(小児耳鼻科)で取り扱う症状や病気

  • 小児の耳鼻科疾患全般
  • 頭頸部の先天性異常
  • 中耳炎
  • 扁桃炎、アデノイド
  • 呼吸困難
  • アレルギー

2-8) 耳鼻科クリニックの実際

耳鼻科領域の症状で診察を希望される場合は、電話やインターネットでクリニックに直接申し込みをします。症状や受診希望時間に合わせて予約を入れてくれます。通常は、電話での申し込みから1週間以内に受診できる場合が多いです。緊急の場合は、救急外来を受診しますが、ほとんどの病院には耳鼻科との連携があるので、応急処置をして後日耳鼻科受診の予約を取ってもらえます。

クリニックでは、医師の他にもPA (Physician Assistant)やNP (Nurse Practitioner)などが医師の監督のもとに外来診療をしています。

診療時間は、初診時はおおよそ30分、再来時は15分から30分ぐらいが目安です。初診では、病気の診断をするために処置や検査をされる事が多いです。その場で出来ない検査もあるので、後日再来時に行う事もあります。また、手術が必要な場合には、手術の予約もします。手術を行うには、医療保険会社との交渉や諸手続きのため、最低でも約1週間ぐらいの時間の余裕を見て手術日を決める事になります。なので、例えば、夏休みや冬休みなど学校休暇期間中に手術を希望される場合は、早めに数ヶ月前に予約を取る事も出来ます。診療にかかる費用は、クリニックごとに、さらに医療保険の種類によっても違います。なので、受診前にあらかじめ保険会社に問い合わせておくと安心です。

2-9) 主な病気の診察と治療の流れ

(1)外耳炎、中耳炎、耳漏

問診の後、顕微鏡で耳の中を詳しく診察します。この時に耳漏れがあれば、細菌検査をする事もあります。聴力検査で聴力の評価をします。さらに後日CT検査で耳の奥の状態を評価する場合もあります。耳垢で聞こえが悪くなって耳掃除に訪れる患者さんも多いです。

ヒューストン近郊では、外耳炎(耳の皮膚の炎症)になる人が多いです。症状は耳の痒みから始まって、痛みや閉塞感に進展していきます。湿気が多い気候のためにカビ(真菌)が耳の中に繁殖してしまいます。治療は、定期的にクリニックで耳の掃除のあと抗生物質の点耳薬を使いますが、頑固な場合は治療に数ヶ月かかる場合もあります。

中耳炎は、風邪をひいた後や、飛行機に乗った後などに起こる事が多いです。中耳に滲出液がたまっている場合は鼓膜切開や鼓膜チューブ挿入などをします。感染症が疑われる場合は、抗生物質の点耳薬で治療を開始します。炎症がひどい場合は経口抗生物質や注射による抗生物質が必要な場合があります。抗生物質で治らない場合は、手術による治療をします。手術は、全身麻酔下、日帰りです。

(2)鼻炎、副鼻腔炎

問診の後、鼻の中を詳しく観察します。内視鏡やカメラを使った観察で奥まで見ます。副鼻腔炎の場合は、経口抗生物質や点鼻薬で治療を開始します。炎症がひどい場合は、手術で治療します。手術は、低侵襲の内視鏡手術が主流です。手術は、全身麻酔下で日帰りです。

アレルギー性鼻炎が疑われる場合は、アレルギーの原因となるアレルゲンの特定検査から始めて段階的に治療をしていきます。まずは、経口アレルギー薬、ステロイド点鼻薬、鼻洗浄、などで様子を見ます。効果があまり見られない時には、さらに減感作療法(皮下注射、舌下投与)なども耳鼻科で行われます。

日本の耳鼻科クリニックでよく見かけるネブライザー処置などは、米国ではクリニックで行う習慣は無いですが、希望があれば機械を購入していただいて自宅で出来ます。

(3)扁桃炎

子供の扁桃炎、アデノイド、中耳炎が繰り返す場合は、手術によって扁桃摘出、アデノイド切除、鼓膜チューブ挿入で治療します。手術は、全身麻酔下、日帰りです。扁桃摘出手術の後に注意が必要なのが、痛み止めの薬の服用です。米国で処方される痛み止めは、オピオイド系のとても強いもので、しかも体重あたりの量も日本人には多すぎる量を処方されます。欧米人と比べて、日本人は痛み止めに敏感なので、量を少なめに服用する事をお勧めします。痛み止めが効きすぎてフラフラになったり、呼吸抑制などの副作用も報告されています。市販のacetaminophenやibuprofenで十分効果があります。術後、7−10日後に出血が起こる事があります。手のひら一杯以上の大量の出血の場合は、すぐにクリニックに連絡を取って救急部で診察が必要です。出血が止まらない場合は、手術室で止血する場合もあります。

(4)声のかすれ、喉の違和感

問診の後、内視鏡を使って喉の状態を詳しく観察します。声帯の動き、食道の入り口の状態、炎症や腫瘍の有無を調べます。後日、バリウムを飲む嚥下の検査をする事もあります。アレルギーや逆流性食道炎による咽喉頭異常感症の方が多いですが、アレルギーや食道炎の治療として薬の服用や生活習慣の改善などの治療を開始します。

女性に多いのが、甲状腺の異常です。甲状腺は、甲状腺ホルモンを分泌していますが、様々な原因で甲状腺機能異常が起こります。首の腫れや痛みがあり、イライラしたり、体重が落ちて来たりした場合は、甲状腺機能亢進症が疑われます。バセドウ病や、橋本病などが原因の事も多いです。甲状腺機能異常は、内分泌専門の内科と共同で治療にあたりますが、経口薬で症状が改善されない時は耳鼻科で手術による治療を行います。

2-10) 処方箋や薬について

処方箋は、クリニックから直接薬局に送られる仕組みになっています。薬局が決まっていない場合は、紙の処方箋を薬局に患者さんが持参して注文します。点耳薬、点鼻薬、経口アレルギー薬など、よく使われる薬にはgeneric薬も多く出回っており、薬の成分が同じ場合は値段が安い事が多いです。薬局で、値段があまりに高い場合は、もっと安価な薬に変えてもらう事も出来ますので、その時はクリニックに問い合わせてみて下さい。

2-11) 手術について

日帰り手術がほとんどです。患者さん本人の状態が悪かったり、手術後の管理が困難な場合、患者さんやご家族の希望などで術後入院になる場合もあります。

術後管理が困難で入院が必要な手術には、頭頸部癌の手術、甲状腺の手術、副甲状腺の手術、頸部腫瘍の手術、髄液漏の手術などがあります。

手術にかかる費用は、同じ病気でも、同じ手術でも、病院や保険の種類によっても異なります。あらかじめ、問い合わせて費用を確認しておくと安心です。

2-12) Houston近郊の耳鼻科

大学病院

  • University of Texas Houston Health Science Center
  • Baylor College of Medicine
  • University of Texas MD Anderson Cancer Center
  • University of Texas Medical Branch

Houston近郊の開業医

  • Texas ENT specialists
  • Houston Ear Nose Throat and Allergy Clinic
  • The Center for ENT
  • Kelsey-Seybold clinic
  • Bay Area ENT Ear Nose and Throat Specialists

など、ほとんどがグループ開業で複数のクリニックを展開しています。

3. 日本人に診てもらえる医療機関

University of Texas Medical Branch (UTMB)において牧嶋知子先生が、またHouston Methodist Hospitalにて高島正吉先生がそれぞれ患者様を受け付けておられます。日本語での耳鼻科診察を希望される患者さんは、お気軽にメールでお問い合わせ下さい。

また大学病院や大きな総合病院では、電話やテレビ電話による日本語通訳サービスを受ける事が出来ます。病院が契約している通訳サービス会社の医療通訳の方を通して診療が行われます。通訳の方は、クリニックに来るわけではなく、電話やテレビ電話のスピーカー越しで通訳してくれます。事前に問い合わせておく事をお勧めします。対応可能な病院に関しては項目15の通訳サービスの項目を参照してください。

スマートフォンの翻訳アプリも役に立ちます。音声、画像、文字、筆記など様々な入力法に対応しており、急場しのぎになります。しかし、手術や入院など、込み入った話になりそうな場合は、医療通訳を介する事をお勧めします。